児童相談所内で自殺を図る
児童相談所が彼女の子供たちを保護したのはそんなある日のことだった。保育園から通報があったのである。児童相談所の職員は、子供たちを保護する理由を次のように告げた。
「あなた(母親)は、子供にちゃんとご飯をあげていませんね。それに、何か月もお風呂に入れていないようです。夜も仕事で家を空けていて、子供たちを独りぼっちにさせていますね。これは明らかにネグレクト(育児放棄)に当たります。したがって、子供たちを児童養護施設へ預けることにします」
彼女は彼女なりに一生懸命に育児をしていたつもりだった。だが、発達障害の特性からご飯を作ることができなかったり、銭湯へ連れていくことができなかったりした。
おそらく彼女が自分に発達障害があることを認識し、福祉につながれば、何かしらの支援を受けて子育てをすることができただろう。しかし、彼女は劣悪な家庭環境で育ったために幼い頃に医療につながる機会がなかった。そのため、彼女の行為は発達障害の影響ではなく、親による育児放棄と判断され、子供たちは一時保護の対象となってしまったのである。
彼女はこの後、児童相談所内で自殺を図った上、「私の人生は子供を取り上げられた時点で終わった」と言って、現在に至るまで喪服を意味する黒い服を着つづけている。そして私の勧めで病院へ行って発達障害の診断を受けたものの、「めんどくさい」という理由で福祉とつながることを拒否している。
このようにしてみると、親の発達特性が本人の意図しないところで虐待を生んでしまうことがわかるだろう。これ以外にも、発達障害特有の過度なこだわりや集中がゲームに向き、ゲーム依存になったことで子供をネグレクトしてしまった親、親の執着が子供の教育に向いてスパルタ教育へと発展してしまった親などのケースもある。