社として“最もおいしい”レシピを考案

全国を駆けずり回ってお好み焼きの普及に尽力していた一方で、社内に目を向けると課題があった。社員それぞれのお好み焼きのレシピがバラバラだったのだ。

「もともと業務用のレシピ、家庭用のレシピはあったのですが、営業マンは『オレはこれがいい』、『オレはこうした方がおいしい』という独自のレシピを皆持っていて、もうグチャグチャでした」

営業マンは客先で調理することが多く、実際、人によって異なるお好み焼きが出来上がっていた。これはオタフクソースのブランドに関わる事案であり、早急に全社でレシピを統一すべきだと、お好み焼課は考えた。とはいえ、ベテラン社員などは長年そうした調理方法でやってきたわけで、一筋縄ではいかないのは明白だった。

そこで春名さんらは先手を打って、オタフクソースとして最もおいしいと思われるレシピを考案することにした。そのために、広島に根付くお好み焼き店にアドバイスをもらったり、自分たちで材料の配合や調理手順などを事細かく分析し、実証実験を繰り返したりした。

「うちのレシピはこれだというものを決めました。ただ、決めるとなると、それに対する理由やエビデンスが必要ですよね。ここをしっかり研究して作り上げました」

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春名さんが調理した広島のお好み焼き

2008年4月、半年ほどかけて広島のお好み焼きと、焼きそばのレシピが完成。例えば、お好み焼きのレシピには、鉄板の温度や具材の分量はもちろんのこと、キャベツの切り方や、天かすの配置、麺の載せ方なども記載するほどの徹底ぶりだ。説得力を持ったレシピは無事に経営会議で承認され、全社でのレシピ統一が図られることになった。

レシピを作っても社員に浸透しなければ意味がない。時は前後するが、06年1月に「お好み焼士」という社内資格制度を立ち上げていたため、これをうまく活用して浸透を図った。お好み焼士の資格は筆記と実技からなる試験で、年に1度だけ受験可能。基本的にはインストラクター(初級)とコーディネーター(中級)に分かれていて、後者はお好み焼き店を開業する人たちの講師役が務まるようなレベルが求められる。合格率は約2割と難易度は高い。

現在はインストラクターが392人、コーディネーターが152人と、全社員のおよそ6割がお好み焼士の資格を持つ。なお、これは昇格にも関係し、ある程度のポジションになるには資格取得が求められる。

こうした取り組みによって、社員間でお好み焼きの調理方法にばらつきがなくなっただけでなく、会社全体のお好み焼きに対する知識や技術の底上げにもつながっている。