連日の大繁盛で〝いらっしゃいませ恐怖症〟に
この55円キャンペーンと「街宣」(街頭に立って宣伝することです)のアイデアは、「立地の悪さをなんとかしなければ」という危機感の中でひらめきました。ありきたりのことをしたところで、忙しい東京の人たちはたぶん来てくれない。そこから店の名前にちなんだ、カレー一皿55円という大胆なアイデアが浮かんだわけです。
オープン日がひとまず無事に終わって迎えた3日目。創業メンバーの1人で中高時代の同級生だった友人が、営業中にいつの間にか出て行ったっきり戻って来ないので、みんなで心配していました。そして雑魚寝していた〝合宿所〟に帰ると、全員の荷物が散乱していた2DKが少し広く感じられる。
「あれ? あいつの荷物がないぞ!」
「バックレやがった!」
無理もありません。それだけハードな毎日を過ごしていたのです。残された4人は言葉もなく立ち尽くしました。
55円キャンペーンを打った3日間、店には大行列ができ、その後も行列は続きました。というのも、3日間の55円キャンペーンだけでは終わらせず、5月いっぱい500円キャンペーンを行なったからです。これが噂になったこともあり、開店から閉店まで、途切れることのない行列となりました。
しかし慣れとは怖いもの。5月下旬あたりになると行列が当たり前という感覚になり、しまいには恐ろしくなってきました。営業時間が終わったら夜中に毎晩ひたすらカレールーをつくらなければいけないので、寝る時間がないからです。
「あー、またお客さんが来たわ……。今日も全然休めんわ……」
〝いらっしゃいませ恐怖症〟とでも言うのでしょうか、次から次へと店に入ってくるお客さんを見るのが怖くなってしまったのです。
3日間の55円、さらには5月中は500円という大胆なキャンペーンが当たり、連日、行列ができる人気店となりました。「最近見かける、あの行列はなんだ?」と行列を見た人がまた行列に並ぶので、客足がまったく途切れない。
「あー、今夜も眠れない……」
スタッフ全員が、立ちながら寝てしまうような状態でした。幻覚が見えて、カレールーと間違えて油をかけそうになったり、営業後にラーメンを食べながら寝てしまい丼の熱いスープに顔を付けてしまって「あちー!」とヤケドしたり……。