出版社をまたにかける一大プロジェクト
――そこは『静かなるドン』でも、新鮮組ナンバー3の生倉新八のキャラに活かされていますよね。
そうそう。人間の本能を丸出しでね。人間、本来はそういうもんで、それを体裁で繕っているだけだから。その人間臭さが漫画の全体にも出ているのかもしれないな。いまの若い人は頭がいいから、きれいごとを描くとすぐ見抜かれちゃうもんね。
――『静かなるドン』はもともと実業之日本社の「週刊漫画サンデー」で連載されていた作品です。新作は集英社の「グランドジャンプ」に掲載されるということで、版元が変わって続編が始まるのは稀有な例だと思いました。
そうなんだよ。そんなのありえんのかよって思った。俺としてはどっちでもいいんだけど、よく大手の集英社がそれを許したなって(笑)。
――完全移籍ではなく、集英社と実業之日本社の共同プロジェクトという形だそうです。
まあ手塚治虫の『火の鳥』なんかも、あちこちの出版社で描いてるからね。版権は作者にあるわけだから、出版社を通さずに自分で電子をやってもいいわけ。でも、そこで人間関係がごちゃごちゃするのはイヤだし、俺としては出版社のひとりの編集とやるのがわかりやすくていいんです。
ただ、「ドンやったらどこでもやれる」とは思ってました。実業之日本社で最後の担当編集だった森川(和彦)さんからも、「原作だけでもいいから」とよく言われてたんだけど、描こうにも実業之日本社にはもう雑誌がなかったんだよね。
大手は偉いもんで紙の雑誌を出し続けてるけど、紙はもう売れなくなってる。いまはみんな読みたい本しか読みたくないから、雑誌にお金を使わないんですよ。でも、そうなると多様性がなくなるじゃないですか。みんなが面白い漫画だけしか読まなくなれば、漫画は衰退していきますよ。
あと、俺なんかはアナログ人間だから、雑誌がないと描けないんです。デジタルで描くと絵が妙につるんとして。プロが見たら完全にわかるからね、そういうのって。みんな同じ絵になっちゃうでしょう。