#1 10年ぶり復活の『静かなるドン』はなぜ連載再開を決意したのか?

『静かなるドン』が長期連載になったきっかけ

――1988年に『静かなるドン』を描き始めたころは、ここまで長期連載になるとは思っていなかったそうですね。

うん、2年も続かないと思ってた(笑)。

――それが変わってきたタイミングはありますか?

やっぱり秋野(明美)との恋愛が絡んできてからじゃないですかね。だから、子供のおかげなんですよ。うちは娘ふたりだから、お父さんがバカな漫画を描いてると思われたくなかった(笑)。
そのおかげか、いまも意外と子供に尊敬されてるところあるんですよ。ゴールデンウィークなんかも、娘が友達を3人連れて家に遊びに来ましたから。たぶん、『静かなるドン』の作者に会ってみたいってことだと思うんですけど。

【漫画あり】「俺にとって一番難しいのが感動を描くことで、本当はアホなことを描くのが好きなんだけどね」。2年も続かないと思っていた『静かなるドン』が24年も続く人気漫画になった理由_1
仕事場にて24年間連載した『静かなるドン』を振り返る新田先生
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――そういった若い女性の支持も電子版の影響なんでしょうか。

そうね。うちの娘よりももっと若い20代の女性にも読まれてるから。それは龍宝みたいなイケメンが出てくるからかなとも思う。線が1本違うとどうにもおかしな顔になっちゃうからイケメンは嫌いなんですけどね。まあ、新作は龍宝の出番も多いだろうから、女性ファンにも喜んでもらえるんじゃないかと思います。

実は、龍宝って途中で死ぬ予定だったんですよ。

ヤクザもので全員命が助かるなんておかしいということもあって、ここらでひとつ誰かに死んでもらおうと。でも、龍宝が死ぬと女性ファンが怒るかもしれないということで、代わりになったのが新鮮組の客分だった斎藤始。でも、死んでからやっぱりもったいなかったなと思っていてね。あれは、自分でもいい男に描けたなと思います。
生倉会の戦闘隊長だった小林(秋奈)もだけど、死なさんでおけばよかったなって思うキャラクターは多いですね。

【漫画あり】「俺にとって一番難しいのが感動を描くことで、本当はアホなことを描くのが好きなんだけどね」。2年も続かないと思っていた『静かなるドン』が24年も続く人気漫画になった理由_2
女性読者から人気の高い龍宝国光 ©新田たつお/実業之日本社

――なぜ、いま『静かなるドン』が時代を超えて愛されていると思いますか?

それは作者にもわからない。でも、スティーブ・ジョブズが偉かったということかな(笑)。
昔は漫画をスマホで読むなんて思ってなかったからね。俺にはあの小さい画面では無理だけど、若い人には合ってたんでしょう。寝転がって読めるし、買いに行く手間はないし、それでいて長く楽しみたいってことで、そのニーズに『静かなるドン』がぴったりだったんですよね。

自分で言うのもなんだけど、『静かなるドン』にはすべての要素があるんですよ。ギャグあり、笑いあり、恋愛ドラマあり、バイオレンスも入れて、これで売れなかったらどうするんだっていうくらい一緒くたにいろんなものを入れた。あれがよかったね。俺にとって一番難しいのが感動なんですけど、それも入れたから。

本当はアホなことを描くのが好きなんだけどね。1970年代後半に描いた『怪人アッカーマン』みたいに、下世話で最低なクズ人間を描くのすごい好きなんだよ。