「今月の売上、なんか一桁違うんやけど」電子配信で人気が爆発
実は30年以上前から、『静かなるドン』は電子版でも好調な売上をキープしていたという。
実業之日本社が『静かなるドン』の電子版配信をはじめたのは、作品が連載中の1999年のことだった。当時は大手出版社も電子書籍への展開にまだ慎重な姿勢だったが、むしろフットワークの軽い中小出版社がガラケーでのコマ配信に積極的に取り組んでいた。
その頃から電子書籍書店や電子書籍取次と関係を築いていたのも今につながっていると森川氏は言う。
「20年以上前から電子配信を続けているので、累計の数字は膨大なものになります。総合UUPVの数字では、日本の総人口に迫るのではないでしょうか。ただ、配信当初から好調とはいえ今ほどの金額が動いているわけではありませんでした」
『静かなるドン』が電子書籍の市場で爆発的に売上を伸ばしたのは、完結から7年ほど経った2020年のことだった。
「コロナ禍の少し前くらいに、極端に電子書籍の売上が増えたんです。数字も一桁変わって、新田先生から『今月の売上、なんか一桁違うんやけど』と電話がかかってきました。各電子取次・電子書店さんのプロモーションによるものだと思うんですけど、ちょっとビックリする数字でしたね。私たちが思っていた以上に、潜在的な読者のニーズがあったのだと思います」
最初の言葉のとおり、これと言って特別なことはしていない……はずが、読者がページをめくる手を止めない108巻の長編が電子書籍のニーズにぴったりハマった。「ピッコマ」「LINEマンガ」等のサービスがそれを見逃さずにプロモーションを打ったことで、結果的に年間6億円というとてつもない売上につながったのだ。
また『静かなるドン』が1話完結のストーリーではなく、各話ごとに“ヒキ”を持たせて終わる形式だったことも、タップひとつでどんどん読み進められる電子書籍のスタイルにマッチした。
「『漫画サンデー』では基本的に1話ごとの読み切り感を持たせることを重視していたのですが、『静かなるドン』ではそれをやっていなかった。108巻に渡ってしっかりストーリーの軸があるから、読者も全巻読みたくなるんでしょうね。飛ばし飛ばしで読んでも成立するストーリーだったら、ここまでの売上にはならなかったかもしれません」