北九州監禁連続殺人事件「たたきまわされながら、松永が死んでなくてよかったと思った」自殺という嘘に騙された共犯者、緒方の悲劇。全裸にされ、家族とともに激しい暴行を受けて_2

嘘の電話

冒頭陳述の段階ではこのようにあるが、判決文はこの期間に松永が、それだけにとどまらない話をしていたことを明かす。

〈(孝さん、和美さん、智恵子さんに対し)「緒方は詐欺罪等で指名手配を受けている。緒方は由紀夫を殺害してその死体を解体し、また、祥子(末松祥子さん)を海に突き落として殺害した。」などと申し向けた。

(中略)松永の話は、これまで緒方を通じて聞いていた指名手配中の事件にとどまらず、緒方が殺人という大罪を犯しているという衝撃的な内容であり、松永の話し振りなどから、それが虚偽だと思えなかったところから、孝らは大いに落胆するとともに、緒方一家が大変な事態に直面し、非常な窮地に立ち至ったことを否応なく認識させられた〉 

また、真面目で世間体を気にする緒方家を手玉に取り、松永がさらに要求をエスカレートさせていく様子について、先の検察側冒頭陳述は次のように説明する。

〈被告人松永は、「純子が子供を捨てて家出をした以上、自分と純子の2人の子供が大学生になるまで面倒を見るように。」「自分も緒方家の方で一緒に住む。」などと要求し、既に被告人緒方を分籍して隆也を婿養子に迎えている緒方一家には実現困難な無理難題を押し付けたり、
「純子1人で暮らさせていいのか。また何か犯罪をしでかすのではないか。」などと繰り返し申し向け、元来犯罪とは無縁の生活を送り、その体面を気にする環境にあった緒方一家に被告人緒方を取り戻さなければ大変なことになると信じ込ませて不安に陥れるなどした挙げ句、同人らに被告人松永の指示に従い同緒方を連れ戻さざるを得ないと思い込ませた。

その上で、被告人松永は、和美、智恵子及び孝の3名に対し、自己が長崎県内の西海橋から投身自殺した旨の虚偽事実をでっち上げ、これを被告人緒方に伝えて片野マンションに呼び戻す芝居を打つことにして、孝らをしてこれに加担することを承諾させた〉

そうしたなか、湯布院でスナックでの仕事を見つけて人心地ついた緒方が、14日の昼に実家へ電話をかけてきたのである。その際、電話に出た智恵子さんや孝さんは、松永に言い含められた通りの応対をした。

それは、松永が自殺をしたということと、子どもたちの面倒を見る必要があるから、とりあえず小倉に帰ってこい、というものだ。