「10円以下の価値にしたかった」
透明のアクリルボックスに入った「うまい棒《げんだいびじゅつ味》」。銀色のパッケージには松山智一氏が手がけた線画が入っている。たしかに高級感は漂っているものの、発売当初の価格(1本10円)から見ると1万倍もの価格設定ということで、世間に大きなインパクトを与えたようだ。
——『1本10万円のうまい棒《げんだいびじゅつ味》』を発表した際、周りの反響はどうでしたか?
松山智一(以下、同) 大爆笑でしたよ。10万円のうまい棒って何? 金箔貼るの?ってね。それはつまり10万円の現在の対価についてのリアクションなんですよ。
要は「現在の対価」なのか「未来の対価」なのかっていうところを考えるのが、今回のこのうまい棒を通じて、世の中の人々に伝えたかったことです。
現在の対価を説明するなら「パッケージが凄いのか」というと、僕はサインも書いていないし、印刷も銀色にすれば発売当初の10円以下の価値になる(現在は1本15円)。とにかく「10円以下に見せること」がテーマでした。
アートワークも全然凝ったものではなくて、どこまでデザインしないかがポイントだったんです。広く親しまれた商品にアートという概念を用いて「新たな価値」を創出することができるのか……という問いを投げかける作品だったんですね。
——購入者殺到で抽選販売になりましたが、このような反応は予想していましたか?
売れること自体に関しては、まず問題ないだろうなと思っていました。でも、関係者のみんなはそこまで信用はしてくれなくて……。
そもそも僕自身、ニューヨークに行ってから独学で作品制作を始めました。普通は「日本でこれだけやったんだ」と実績を積んでからニューヨークで戦うものなんですけどね。
僕は “無価値” でスタートしたんですね。だから僕自身をうまい棒と重ね合わせて、今回はある意味これまでの自身の活動を投影した作品なのかもしれません。
——うまい棒が松山さん自身の投影だったとは……。
今では世界各国の美術館で作品を発表するようになりましたが、当時、僕はカフェで50ドルで作品を販売していた時期もあります。
要は僕が作品を介して伝えたいメッセージというのは、美術の価値は物自体にあるのではなくて、1歩ずつ歩んでいくストーリーにあるということなんです。
人々が紡ぎ出すストーリーに価値があるんですね。つまり周りが作るものなんです。
——物語によって作品の価値が高まるということですね。
まさにその通りで、「うまい棒が完売しました」「購入者殺到で抽選販売になりました」となると「僕も買えばよかった」とか「俺も買う予定だったんだけど買えなかったんだよね」というストーリーが生まれます。それが「価値が生まれる」ということなんです。
——そういえば、テレビでも取り上げられていました。
ある番組で「10万円のうまい棒」がテーブルに置かれていたんですが、出演者の皆さんが誰1人触らなかったんですよ。ただの1本のうまい棒でも「欲しい人がたくさんいる10万円のうまい棒」となると、とたんに美術作品に見えるものなんですね。
情報の刷り込みによって価値が生まれてくるんです。
本当に物自体には価値がないんですよ、ストーリーに価値があるわけで。みんなが知っているものに全く違う見方を提案するのが作品のおもしろいところです。