金を搾り取ることができない邪魔者
由紀夫さんが浴室の清掃時に、外に出たか否かで異なっているこの両者の供述に対して、判決文は〈緒方は、はっきりとそのような記憶があると述べている上、その供述内容は、浴室の状態、甲女が行った掃除の方法等に照らし、甲女供述に比較し自然である〉として、緒方の記憶を採用している。
なお、細かい話になるが、先に「緒方の供述に沿って」とした判決文にある、松永が〈緒方に対し、「あんたがご飯食べさせてないけやろうが」〉と言った箇所については、緒方の供述ではなく、清美さんの供述をもとにしたものである。
この時点で死亡していたとみられる由紀夫さんに対して、松永は蘇生措置を取っていた。その様子は判決文に詳しい。
〈松永は、由紀夫に対し、3,40分間くらい、人工呼吸(マウス・ツー・マウス)をしたり、緒方に心臓マッサージをさせたり、甲女に足をもませたりした。
さらに、松永は、「万一蘇生するかも知れないから通電〔松永の拷問の手口〕してみよう。」などと言って、由紀夫の胸部等にクリップを取り付け、何度か通電したが、由紀夫は身体を動かさなかった〉
通電は胸だけでなく、足や指にも行われたという。由紀夫さんの死亡を確認した松永と緒方は、遺体を浴室内に運び入れた。ちなみに、この時点で緒方は第二子を身ごもっており、出産したのが翌月であることから、かなりお腹が大きな状態であったとみられる。
由紀夫さんが死に至るように仕向けられた事情について、判決文は以下の理由を挙げている。
〈平成8年1月上旬ころには、もはや由紀夫は金を工面することができなくなっており、金づるとしての利用価値が乏しくなっていた上、由紀夫は、かねての被告人両名の支配下における継続的な暴行、虐待により重篤な状態に陥り、外見上も異常な症状が顕著に現れていたが、
由紀夫を病院で治療させたり、実家に帰したりすれば、当時指名手配中であった被告人両名の所在が探知されたり、被告人両名が由紀夫に暴行、虐待を加えたことなどが発覚したりするおそれがあった。そうすると、当時、被告人両名にとって、由紀夫はもはや邪魔で疎ましい存在でしかなかったことが推認される〉