いびきをかきはじめてぐったりと…
それから松永と緒方に命じられた清美さんが、浴室に清掃に入った際の状況について、公判における緒方の証言は次の通りだ。
「清美が浴室を掃除する間は、由紀夫を浴室から出して台所に移動させた。由紀夫は自分で立ち上がり、足形を書いた紙を足の下に敷いて、自分で移動して台所まで歩いていった。台所で由紀夫の衣服が汚れていないか確かめた。
衣服を脱がせて確認したのが台所だったか浴室だったかは、はっきり憶えていない。浴室の掃除が一通り終わってから、松永の指示を受けて、由紀夫をふたたび浴室に入れた」
それから由紀夫さんの様子は急変した。判決文は緒方の供述に沿ってそのときの状況を説明する。
〈浴室の床はまだ雑誌が敷かれていない状態だった。由紀夫は、浴室に入ると、洗面所の方を向いてあぐらをかいてしゃがんだ。
松永が洗面所から浴室内の由紀夫に話しかけたところ、由紀夫は、あぐらをかいたまま上半身を前屈させて倒れ、両手を前に伸ばし、額を床に着けた状態で動かなくなり、突然いびきをかき始めた。
松永は、由紀夫の異常に気付き、緒方を呼び寄せた。松永は、由紀夫の様子を見て、緒方に対し、「あんたがご飯食べさせてないけやろうが。」などと言った。
松永と緒方は、すぐに由紀夫の手足を持って由紀夫を台所に運び、床に仰向けに寝かせた。由紀夫は目を閉じており、いびきは止んでいた〉
じつはこの際の由紀夫さんの行動について、公判での清美さんの供述は、一部が異なっている。その要旨は以下の内容である。
「帰宅してから、緒方から早く浴室を掃除するように言われた。そこで浴室の床に敷いてあった雑誌を取り除いたり、床や壁をシャワーで洗い流したりして掃除した。
緒方も雑誌や大便を片付けて袋に入れる手伝いをした。お父さんは掃除の間も浴室内におり、浴室入口付近であぐらをかき、頭を床につけていた。お父さんは私が尻の下にあった雑誌をどけるときに、尻を少し浮かせるように、ゆっくりとした動作で体を動かした。
そのとき、緒方が『はよどかんか』などと声をかけた。お父さんは、そのとき以外はまったく体を動かすことはなかった。誰とも話さず、始終無言でいた。
緒方は洗面所の浴室入口付近に立っていた。松永は、洗面所付近を行ったり来たりしていた。私が浴室の壁や床をシャワーで洗い流していた間、お父さんは動かずそのままの状態でいたが、「グオーグオー」といびきをかき始め、その後ぐったりした。
松永は、お父さんがいびきをかき出したとき、緒方に対し、『あんたがご飯食べさせてないけやろうが』などと言った。その後、松永と緒方がお父さんを浴室から運び出し、台所の床に仰向けに寝かせ、緒方がお父さんのカッターシャツを脱がせた」