人間はさまざまな能力をもっているが、成功に欠かせない「人的資本」になりうるのは、そのなかでもマネタイズ可能なものだけ_1
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橘玲氏が定義する幸せの土台として欠かせないのが、「金融資本」「人的資本」「社会資本」の3つの資本だ。本記事では、人的資本とは何か、そして資本の活用法について解説する。

こころを病む原因は長時間労働ではない

日本の会社では、男女を問わず社員のこころの病が大きな問題になっている。

その原因は長時間労働にあるとして、時間外労働の上限規制などの政策対応が次々と打ち出されているが、サラリーマンのメンタルヘルスを診る産業医によれば、問題はたんに長く働いていることではない。

誰もが知っているように、「嫌なこと」をえんえんとやらされるから苦しいのであって、好きなこと、楽しいことであればどれほどの長時間労働でもまったく苦にならない。

スティーブ・ジョブズはマッキントッシュのコンピュータをつくるとき、「1日8時間労働」とか「残業は週15時間まで」などと考えもしなかった。ガレージに寝泊まりして夢中で働いたのは、それが楽しかったからだ。

あらゆる仕事で高い専門性が要求されるようになったが、日本の会社は頻繁な人事異動で「ゼネラリスト」を養成してきたため、仕事に必要な知識やスキルを獲得できないまま、年功序列で役職が与えられる。

そうなると、「この仕事をやりとげるだけの能力が自分にはない」と思いつつも、責任のある仕事を任せられ、誰にも不安を打ち明けることができず、上司や同僚、部下、クライアントの視線に戦々恐々としながら日々をやり過ごすことになりかねない。

プログラミングの知識がほとんどないにもかかわらず、多数のプログラマーを束ねる大きなプロジェクトの責任者になったら、会社に出社できなくなったとしても不思議はない。

それでうつ病と診断されれば仕事から外れることができ、〝ウソ〟がばれずにすむのだから。

高度化した知識社会では、人的資本(高い専門性)をもたない者は、会社(労働市場)のなかで“居場所”を失い、うつ病など精神疾患のリスクが高くなる。

人的資本を一極集中するエッセンシャル思考を勧める第一の理由は、金銭的な報酬が増えるからではなく、こころの健康維持なのだ。