有権者は投票に必要な
基本的な知識をもっていない
バカと無知はちがう。バカは能力の問題だが、無知は問題解決に必要な知識を欠いていることだ。あなたがどれほど賢くても無知な可能性はあるし、実際にはほとんどのことで無知だろう。
わたしたちが無知なのは、現代社会がものすごく複雑だからだ。日常のあらゆる疑問(飛行機はなぜ飛べるのか?)に対して厳密な知識を得ようと思えば、二つか三つで人生が終わってしまう。――研究者というのは、たった一つの疑問を生涯考えつづける人のことだ。
もちろん、すべてのことに無知だと生きていくことができない。そのためわたしたちは、厳しい制約(1日は24時間で、睡眠時間を除けば16時間程度しかない)のなかで、なんとか必要最低限の知識を手に入れようと四苦八苦している。
テレビやパソコンを買うときは、すべてのメーカーのモデルを詳細に比較するのではなく、知人や家電量販店の店員のアドバイス、インターネットの評判などを参考に、条件に合いそうなものを決めるだろう。ベストな選択ではないかもしれないが、大量の情報を入手・検討するコストを考えれば、ベターな選択の方がコスパがいいのだ(限定合理性)。
政治学では、有権者の「政治的無知」がずっと喉に刺さった小骨のようになっている。民主政(デモクラシー)では、公正な選挙によって国民の正当な代表が選ばれるが、あらゆる調査において、有権者は投票に必要な基本的な知識をもっていないことが明らかになっているのだ<注>。
注:イリヤ・ソミン『民主主義と政治的無知 小さな政府の方が賢い理由』森村進訳、信山社