定着させることが本当の目的なのか
ここまで職場、そして若者の話をしてきた。次はゆるい職場の時代の若者と職場の関係について考えよう。その関係性を考えるうえで、まずはケーススタディとして次の事例を読んでほしい。
あなたは大手企業のとある事業部の企画課課長。ある日、26歳のAさんが緊張した面持ちであなたのそばに来て言いました。
「課長、少々お話があるのですが、夜帰る前に時間頂けますか」
夜。
どうやらAさんは転職を切り出そうとしているようです。
若手有望株として本人の希望に沿って企画部門にきたAさんに辞められることは、あ
なたの評価にも関わりますし、会社にとってもマイナスです。
「やりたいことがこの会社ではできないんです」
……1ヵ月後、Aさんの送別会の場であなたは振り返ります。「Aさんを翻意させられる可能性はあったのだろうか?」
翻意させる手は、あったのだろうか。すでに様々な手を試したが……という、日々奮闘・苦闘する管理職の声も聞こえてきそうである。
このケースにごくごく似たことが今日も日本のどこかで起こっている。しかし、最終的に転職を翻意した若者のケースはそのうち何割、いや何%あるだろうか。
かねてより、日本人は店で良くないことがあっても黙っている良いお客様だと思われてきたが、その実、"黙って来なくなる""その場では何も言わないだけ"の難しい客であると言われるようになってきた。
職場においてもこの姿勢は踏襲されているのか、「黙っていていきなり辞めると言い出す」のが伝統的な日本の退職スタイルである。
既に転職先を決定した状態で「課長、少々お話があるのですが……」と来るため、翻意させることは容易ではない。
同時に、ゆるい職場において厄介な問題が起こっていた。「若手で職業生活を自律的におくるパフォーマンスが高い若者ほど、退職する意向が強い」のだ。
厄介な、若手離職の現状。ここではその打開策を考えよう。ポイントは、「若者と職場の新しい関係性」である。