離れ小島に囲い込む
日本を代表する超大手企業の花形部門で働き、社内で数々の革新的な取り組みを行ってきたとある20歳代の社員は、自社のことを「離れ小島」と揶揄していた。
外の世界から遮断され、組織の内側の話だけで一日が終わっていく。そんな人材が囲い込まれた様子を、彼は情報が入ってこない孤島、離れ小島に例えていたのだ。予想外の言葉に、思わず何と言ったのか聞き返したほどだ。
あなたの会社はどうだろうか。ほとんどの会社は、社員に自社へ愛着を持ってもらいたい一心だろうし、彼ら彼女らを囲い込んで情報を制限しようとは全く思っていないだろう。
ましてや若手から「離れ小島」と思われているなんて考えたこともない会社も多いはずだ。
ただ、名の知られた大手企業から、「優秀な若手が何も言わずいきなり辞めていく」「昨年の20代退職者が過去最多だった」「年収が数百万円下がるのに、若手がスタートアップ企業に転職していく」といった悲鳴のような声をたくさん聞いている。
企業側としては、人手不足、若手採用難のさなか、必死に採用した若手に辞められてはたまらない。そこで、若手の離職を回避するためのリテンション施策に今、大きな注目が集まっている。
社内メンターの設置や、希望部署の聴取と配属、抜擢人事、社内副業、全社でのイベント開催、そして社員向けの福利厚生の改めての充実まで、施策の幅は広い。
ところがこうしたリテンション策は、「会社に愛着を感じてもらいたい」と口では言っていても、「人材の囲い込み」としての色合いが濃く、社内との接触を増やして社外との関わりを減らすことで離職を防止しているように見える。
副業・兼業を解禁する企業も増えつつあるが、経団連会員企業のうち約半数は、副業・兼業をいまだに禁じている。
また、日本の大手企業は生え抜き文化も根強く、幹部には新卒でその会社に入った人が就いていることが多く、採用においても大企業は正規社員採用の6割以上を新卒採用で入れている。
転職が一般化したとはいえ、終身一社、「武士は二君にまみえず」で、自社の外の世界を見たことがない先輩社会人が多い状況には変わりがない。