大幅に遅れる西側諸国の戦車供与
話を戻そう。フランス駐在のウクライナ大使によれば、西側諸国からウクライナに供与される戦車数は321両に達したとされる。
ドイツのショルツ首相が1月25日にレオパルト2戦車の供与を表明したのをはじめ、米国からはM1エイブラムス、イギリスからもチャレンジャー2などの戦車が供与される予定だ。これだけ大量の戦車があれば、ウクライナの反転攻勢は充分に可能だろう。
だが、ここに来てその供与計画が完全にスタックしている。各国の戦車供与表明は単なる政治的なゴーサインにすぎず、実際にはわずかな台数の戦車しか春までにウクライナ軍に届きそうにないのだ。
前出の戸塚編集長が続ける。
「ドイツは新旧のレオパルトを200 両、ポーランドも74両の供与を約束していますが、実際にウクライナに到着予定の戦車はドイツ14両、ノルウェー8両、スペイン6両、カナダ4両、ポルトガル3両、フィンランド3両の計52両にすぎません。これでは1個戦車大隊(40両)を編成するのがやっとで、作戦に投入するには力不足で危険です」
なぜ、すみやかに戦車がウクライナに供与されないのか?
ひとつは各国の保有戦車数(武器庫在庫含む)と実際にすぐにでも運用できる戦車数に大きな隔たりがあったためだ。たとえば、スペインは武器庫に保管している戦車を実戦で使うためには基本的に2カ月以上の整備期間が必要として、最初の1両がいつウクライナに届くか明言していない。
2カ月という整備期間を示したスペインはまだましで、旧式のレオパルト1を合わせて178両保有するドイツ、オランダ、デンマークにいたっては部品交換や整備などのオーバーホールにどれだけ時間がかかるか、いまだに明らかにしていない。
また、230両保有するフィンランドのように供与すると言いながら、たったの3両と実際にはのらりくらりと先延ばしするような国も少なくない。
ゼレンスキー大統領は2014年に略奪されたクリミア半島の解放をめざすとぶち上げている。しかし、黒海艦隊の拠点を失いたくないプーチン大統領は同半島を死守するだろう。それどころか、1月21日の演説を聞くかぎり、ウクライナ全土の占領をまったく諦めた様子はない。
その一方で、米国をはじめ、ドイツ、フランスなどのNATO諸国は戦争の長期化を嫌い、ロシアが本格侵攻する以前のウクライナ領土が回復できればそれで十分と内心考えているフシがある。
泥濘期が過ぎれば、ロシアのさらなる大攻勢が懸念される。レオパルト2など、NATO諸国の戦車供与があと3カ月早く実現していればロシア軍の攻勢の矛先も鈍り、今のようにウクライナが防戦一方になっていなかったと思うと残念でならない。
取材・文/世良光弘 写真/AFLO shutterstock