叱るときは並んで座る
仕事は褒めているだけではもちろん成立しない。遅刻が多いとか、仕事に前向きでないとか、ときにはお説教も必要だ。だが普通には叱らない。そこにもムラカミメソッドがある。
「相手とは絶対、正面で向き合って座りません。必ず横並びか、90度の角度で座ります。向き合って座ると『怒られてる感』が出ちゃって、それだけで辞めてしまう人がいるんです。だから横並びに座って、たとえば遅刻が多いタイムカードを前にして『二人でこの問題を解決しようか』みたいな雰囲気を演出します」
本当に細かいところまで気を遣うのである。私が思わず
「も今どきの若い人を宇宙人としか思えない私からすれば、ムラカミさんの人心掌握術はすごいです」
と感嘆すると、ムラカミさんは「あっはっは」と手を叩いて笑った。
「その『宇宙人』というのは、私が13年前にこの業界に入ったばかりのころ、先輩の黒服から言われた言葉ですよ。『相手(キャバ嬢)を宇宙人と思え。絶対にわかり合えると思うな』って。だから今も私もわかっているとは思っていません」
達人にしてこの境地。なんとなく安心するではないか。
(写真撮影/神田憲行)