陰陽わかれるレオとブラッド
ついに2000年代に突入したこの年の興行収入トップは、大ヒット映画『ミッション:インポッシブル』(1996)の続編『M:I-2』(2000)だ。二丁拳銃にスローモーションに白い鳩と、香港からハリウッドに進出したジョン・ウー監督独特のアクションスタイルを、大胆に採用した野心作である。最近のクリストファー・マッカリー監督による洗練された演出に慣れた観客は違和感を覚えるかもしれないが、ブライアン・デ・パルマ監督が手がけた第1弾といい、初期の『ミッション:インポッシブル』は、監督ごとにまったく異なるスタイルを採用していたのだ。
当時、「ロードショー」の読者にもっとも期待された新作といえば、おそらく『ザ・ビーチ』(2000)だろう。なにしろ『タイタニック』(1997)で世界的なスターとなったレオナルド・ディカプリオが、殺到するオファーのなかから厳選した1本である。原作はアレックス・ガーランドのベストセラー小説、脚本・監督・プロデューサーは『トレインスポッティング』(1996)などを手がけているイギリスの気鋭クリエイターチームと、傑作の予感がぷんぷん漂っていた。
だが、あいにく作品は凡庸な出来で、当然のごとくヒットには至らない。敗因は、ディカプリオの起用にあったと個人的には思っている。
もともと本作はユアン・マクレガー主演で準備が進められていた。しかし、製作陣は熱烈なラブコールを送ってきたディカプリオを選択。そのおかげで潤沢な予算を手に入れることができたものの、ひきかえに過剰な期待を抱え込むことになった。『シャロウ・グレイグ』(1994)『トレインスポッティング』といった低予算映画でリスクを取ってきたダニー・ボイル監督、ジョン・ホッジ(脚本)、アンドリュー・マクドナルド(プロデューサー)が、初のスタジオ大作で浮き足立つのも無理はなかった。おまけに、ダニー・ボイル監督はユアン・マクレガーとのあいだに遺恨を作ってしまった。
気鋭のクリエイター陣がビッグスターを起用したことで取り乱してしまった『ザ・ビーチ』だが、その正反対の例もある。ブラッド・ピット主演の『ファイト・クラブ』(1999)がそれだ。
どちらも同じスタジオが同時期に製作しており、原作モノであることやビッグスターが主演を務めている点も同じ。違っていたのは、メガホンをとるデヴィッド・フィンチャー監督が徹底したコントロールフリークである点だ。主演のピットが絶大な信頼を寄せていたおかげもあって、フィンチャー監督は自身のビジョンを実現。おかげで『ファイト・クラブ』は大ヒット映画とはいえないまでも、カルト映画としていまなお強い影響力を保っている。