問題の回答よりも
自分で考える道具を手にできる一冊
現在は未来と繫がっている。
私たちの行動は、それが何気ないものであったとしてもすぐ近くにある自分自身の将来に影響するのみならず、子孫や近くにいる人々を通じて遠い未来まで波及する。とはいえ、私たち一人一人にそう大きな影響力があるわけではない。さらに言えば、私たちは大抵現在のことについて考えていて、未来にわたる影響について考えることはまれだ。長年にわたる国家の政策や環境問題など、多くの人間が関わる事象や数十年、数百年と続く難題に個人の力で出来ることなどごくわずかなのだから、そうなるのも自然なことである。
しかし、だからと言って全く考えなくて良いということはないだろう。私たちの属している共同体の、そして係累の未来を慮る心があるならば、少しでも未来の問題を少なくしたいと考えるのは当然である。
では、私たちか私たちの子どもたち、ひいてはその子孫、あるいは国や世界がいつか直面しなければならないような問題についてどう考えれば良いのだろうか?
本書はそういった問題について倫理学的側面からアプローチしている。
と言っても、哲学や倫理学の専門的な知識が必要とされるような専門書でもなく、逆に全くの空想的な未来を描くような楽しい書物の類でもない。
「未来倫理」について一から考察を始め、倫理学について初見の読者でも読んで楽しめる、それでいてしっかりと現代において予測される未来の問題に取り組んでいる、実に考えさせられる一冊なのである。
本書を読み終わったとき、読者のあなたが手にしているかもしれないものはただの問題に関する回答ではなく、未来を考えるための手掛かりであり道具だろう。
未来をどう切り開いていくかは、まさに私たちの問題でもある。本書はその手助けをする一冊となるに違いない。