来る乱世を歩むためのガイド
2022年、世界を新型コロナウイルスによるパンデミックが覆い尽くした後、ロシアがウクライナに侵攻し、欧米で民主主義の危機が叫ばれ、排外主義が蔓延り、中国を筆頭に権威主義体制国家が台頭していく。イギリスのトラス政権の早期退陣、アメリカの1・6議場乱入以降、更にトランプ化した共和党、シリア、イラク、イランの国内情勢、イスラエルのネタニヤフ復権、ブラジルのルラ復権とボルソナロの居直り、そして日本の安倍晋三銃撃事件だ。近代主権国家体制に亀裂が走り、あちこちで沸々とエネルギーが湧き出てきている。乱世来る。
このエネルギーの正体は何か? それがもたらすものは何か? こうした今、足元から漂い始めた気配の正体を探り、来る乱世を歩むためのガイドがこの笠井潔氏と絓秀実氏の対談本だ。
1968年を軸とした時代にもエネルギーの噴出により国際社会のあちこちには亀裂が走っていた。その時代を体験した二人の語りにはとにかく大量の固有名詞が並ぶ。進行の外山恒一氏がそう言うことがあったんだ程度で読み飛ばしてくださいと補助線を引いてはくれるがとにかく圧倒的な量だ。僕は「言葉はただの箱であり、問題は中身だ」と考えている。対談の中で大量に並べられる言葉たちの中には確かにぎっしりエネルギーが入っているように感じられる。だが、当時の学生たちは箱の差異にこだわり、箱の取り合いにより中身のエネルギーが細分化され、弱体化して行ったように思える。人間は言葉を使うようになってからエネルギーに対して鈍感になってしまった。
だが、それでも二人がピュアにエネルギーに反応出来たのは「みんな」「われわれ」という密な身体的体験であった。そのエネルギー量を笠井氏は東京が焼け野原になるくらいのものだと表現している。「戦後民主主義」「主権国家」という虚構を打ち壊すエネルギー。果たして一度も主権者になったこともなく、パブリックの概念もないまま、コロナ禍で「みんな」意識すら失った日本国民がちゃんと向き合って反応出来るのか?