大丈夫じゃない人が言う「大丈夫」
DJ・音楽プロデューサーのデヴィッド・ゲッタとシンガーソングライターのビービー・レクサによる「I’m Good(BLUE)」がUKチャート1位、TikTokで5億回以上再生されるなど大ヒットを記録している。力強いボーカルと王道のダンスミュージックの融合だ。
歌詞はとてもシンプル。冒頭からひたすら「私は大丈夫」の言葉が繰り返される。「私は平気、大丈夫 人生最高の夜を過ごすの 車でどこへ連れて行かれてもいい 私は大丈夫よ、知らないの? 私は平気、大丈夫よ」という具合に。「大丈夫よ」が何度も繰り返されるうちに、その憂いを帯びたメロディと相まって、本来の意味とは正反対の「やってらんない、もう最悪よ」の意味に響いてくる仕掛けが秀逸だ。
誰しも、友人や恋人の様子がいつもと違うと感じたとき、「どうしたの?」と尋ねた経験はあるだろう。そこで「あ、いや、大丈夫」と言われたら、それはもう緊急事態の合図である。大丈夫かどうかなんて尋ねていないのに「大丈夫」と返事をしてくる人は、大概、もう大丈夫ではないのだから。
ダンスミュージックは、基本的には同じリズムとメロディが繰り返される反復の美学である。そのため、ダンスミュージックにのせる歌詞は、同じ言葉の繰り返しのほうがよく、さらには繰り返されるほどにその意味が深みを増していく言葉であれば、なおさらよいということになる。
この歌は自暴自棄になるほど最悪な出来事が起こったであろう主人公の女性が、ダンスフロアで酒に酔って踊りながら「私は大丈夫」と強がりを繰り返す、という切ないワンシーンを反復の美学の中にきれいに落とし込んだところにヒットの要因があるような気がする。
恋人に浮気されたのか、会社をクビになったのか、彼女に何が起きたのかはわからない。でも多分、そこが具体的に書かれていないのもポイントだ。「訳あり商品」と書かれると妙に気になるし、「あの人、訳ありだから…」と言われるとその人が妙に気になるように、「訳あり」は人の興味を惹きつけるのだ。
「I’m Good(BLUE)」
David Guetta&Bebe Rexha
WARNER MUSIC JAPAN