文化や習慣のギャップを乗り越え、この映画が交流のきっかけになれば
──映画の中では、愛知県のブラジルといわれている保見団地で実際、撮影されていますが、エキストラとして参加した人たちとお話はされましたか?
「彼らから出てきた本音みたいなものや心の声までは聞いてないですね。あくまでも陽気で、映画に出演することに関して楽しんでる感じを受けました。冬の撮影で、寒かったり、予定より時間が掛かったりして、大変だったと思いますけど、それをやり過ごすエネルギーを感じましたね。
先ほどの『KAMIKAZE TAXI』のときから25年ほど経ちますが、海外から仕事を求めて日本に来た人たちと、以前から暮らす人々の間には、相変わらず、なかなかうまく交流できてないということを聞き、苦労されているんだなと思いましたね。世界中、どこでも、この問題はあるようですが、日本は島国で、大量に移民を受け入れてきた歴史がないですからね。文化や習慣のギャップを乗り越えられれば。この映画が交流のきっかけになればいいなあと思っています」
僕が焼いたやきものは本当に重い(笑)
──役所さんは陶器職人の役で、かなり練習されたと伺いました。映画の中では、吉沢亮さん演じる息子が、大きなプラントの仕事を辞めて、陶器職人の跡を継ぐと言い出したことで、二人の間で意見の食い違いが生まれます。その設定はどう感じられましたか?
「吉沢亮君が演じた息子は優秀な子供ですからね。自分のような陶器職人となって、苦労して、妻まで死なせてしまったような大変な仕事をやらせるわけにはいかないっていう気持ちが大きかったと思います。助けを求めてきたマルコスとその恋人のエリカに関しては、自分の子供というよりも、自分が陶器職人になって荒んだ生活をしていた頃に出会った女房との風景と重なったので、自分の知っている技術なり何かを伝えようと思ったのかな。おそらく、マルコスは昔の自分に似ていると思ったんだと思います。
陶芸に関しては、はい、もう練習でいっぱい作ったんで。家に土と電気ロクロを持ち帰って練習しました。その中の出来が良かったものを本窯で焼いてもらって、映画でも僕が作ったものがちょっと映っています。僕が焼いたものはもう本当に重たいんですけど(笑)、記念にスタッフももらってくれて、まだまだ家にもいっぱいありますよ」
──吉沢亮さんとは初顔合わせだと思いますが、彼の演技にはどういう感触を抱きましたか?
「吉沢さんは、演技初出演の若い人たちと比べてはもう大ベテラン、ましてや大河ドラマの主役として、1年間ずっと番組をしょってきた後だから、非常に落ち着いていて、余裕があって、しっかり学という役をこなし、若い俳優さんたちをリードしていたように思います。吉沢君は、陶芸の練習する時間がなかなかなくて、間近まで一生懸命やっていましたけど、とても勘のいい人だと思います」
成島出監督は百戦錬磨、毎回果敢な実験をしている
──役所さんは、成島出監督とは初監督作『油断大敵』では妻を亡くし、一人で娘を育てる新米刑事、『聯合艦隊司令長官 山本五十六』では、日本の行き先を決断せねばならない山本五十六を演じています。『ファミリア』では赴任先でテロに巻き込まれた学のために神谷誠治が政府関係者に思いを訴える場面もあります。
「このエピソードは実際の出来事を反映したもので、当時、国際的にテロには屈しないという国の姿勢が強い時代でした。どんなに戦争に反対しても、戦争をやめるための戦争が始まる。それで犠牲になる人がいるというのは、遠い国の出来事ではないんだろうなっていう気はしますね。
成島さんは、デビュー当時から一庶民として、まっとうな生き方をする人を描いてきて、僕はそこに共感してしまう。本作は要素が盛りだくさんで、これ2時間に収まるんだろうかって思いましたけど、いろんな意味で百戦錬磨な監督。『ファミリア』だけではなく、監督としてのスキルをどんどん上げるために、毎回、果敢な実験をしている感じがします」
ファミリア
現在、約280万人の外国人が暮らしている日本。その中の在日ブラジル人に光を当て、実際に起きた事件などにインスパイアを受けたいながききよたかのオリジナル脚本を映画化。監督は『八日目の蟬』『ソロモンの偽証』などの成島出。役所広司演じる誠治は陶器職人。一人息子の学が、難民出身のナディアと結婚したことを契機に、焼き物の仕事を継ぎたいというが、反対。同じ時期、半グレ集団に追われた在日ブラジル人のマルコスを助けるが……。
監督:成島出
出演:役所広司
吉沢亮 / サガエルカス ワケドファジレ
中原丈雄 室井滋 アリまらい果 シマダアラン スミダグスタボ
松重豊 / MIYAVI
佐藤浩市
製作委員会:木下グループ フェローズ ディグ&フェローズ
制作プロダクション:ディグ&フェローズ
配給:キノフィルムズ
2022年製作/121分/PG12/日本
©2022「ファミリア」製作委員会
映倫:PG12
★2023年1月6日(金)新宿ピカデリーほか全国公開
『ファミリア』公式サイト
撮影/菅原有希子