田臥と畑山…能代工が繰り出す「魔法」

田臥の代名詞にノールックパスがある。

突如として供給されるパスは相手の意表を突くが、能代工にとっては当たり前の連携でもあった。ゴール付近で田臥のパスを受けることが多かった若月が内情を話す。

「よく『あんなパス捕れるね』って言われたんですけど、練習から散々やってきてたし、試合を重ねることで『ここで張っていれば勇太からパスが来る』って覚えていったというか。だから、パスがズレて捕れなかったら謝ってましたね。『ごめん! 俺のいた場所が悪かった』みたいに」

能代工の“魔法”はそれだけではない。畑山のパスも、見る者が驚くほどのパフォーマンスだった。ショートパスはスピーディーかつ正確であり、コートの端から端まで通さんばかりのロングフィードも難なくこなす。

畑山は「自分は基本、コートの中央付近でしか動いてないですからね」と笑いながら、自分が供給するパスのカラクリを明かす。

「田臥のノールックと感覚は同じです。日頃の練習からやっていることなんで、『田臥と菊地のスピードなら、あそこまでボールを通せるな』とか。相手のディフェンスはボールを持ってる自分を見ながら走るからどうしても遅くなる。なので、より速いパスを出せたというのはありました」

40分間、ゴールからゴールをひたすら往復するセンターの小嶋も、畑山の機転の利いたプレーには何度も助けられた。

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田臥の1つ上の代で活躍した小嶋信哉さん

例えば、小嶋が空中戦を仕掛ける。「全日本やNBAの選手はみんな体が強い」と中学時代からウエートトレーニングに目覚め、3年になる頃にはベンチプレスを130キロまで上げられるようになっていた小嶋のフィジカルは驚異的で、競り負けることは少なかった。しかし、体勢を崩して自由が奪われる場面もあり、そんな時はガードの畑山が、パスをしやすい位置まで先回りしてくれていたと、小嶋は言う。

「三彦先生が『リードガードがダメなら負ける』と言っていたように、能代はポイントガードへの信頼が高いんです。そのなかでも畑山は、本当に素晴らしいガードでした」