なぜ身長差をカバーできたのか?
能代工には「ビッグマン・ドリル」という、ゴール下対策の守備練習がある。これは、アメリカの大学にコーチ修行に行ったOB、加藤康洋が母校に持ち帰ってくれたメニューだった。小嶋は1年生だった95年に教わったなかで、とくに「実になった」と自信を持ったのがリバウンドだった。ボードにボールを当て、右腕と左腕で交互にキャッチすることで、捕球技術をアップさせることができた。
ドリルの練習以外でも、ディフェンスの幅を格段に広げられた。ゴール下でのボールの奪い合いがそうで、ステップによって優位なポジションを確保できることを、加藤から学ぶことができた。
「リバウンドだけではなくて、ドリルにはディフェンスの全てが詰まっていて。その他の練習でも、1年の時に加藤さんに叩きこんでもらえたことが生かされました」
福岡大大濠との試合では、三苫のプレーの幅を狭めるために体を当ててスペースを作らせず、ボールを供給させないよう努めた。そして、1年前はスモールフォワードだった小嶋は外側からのシュートも精度が高いため、要所で3ポイントを狙う。それにより相手マークを引き付けることでゴール付近にスペースが生まれ、能代工はペースを掴んでいった。
95-77。優勝候補を退けた能代工は、決勝でも強豪・洛南を110-65で圧倒し、2年連続でインターハイを制した。
3年生の葛藤「怒られるのは俺たちだけでいい」
「よく優勝できたなぁ」
表彰式の間、控室で荷物の整理をしていた金原は感慨に浸っていた。喜びより安心感。日本一を宿命づけられた能代工において、「無冠」は不名誉な印象を後進に植え付ける。自分たちもそうだったように、タイトルの有無によってOB戦などで母校を訪れた先輩の見る目が変わるのだ。
その一方で、金原のなかには、田臥ら下級生主体で勝ったことに対して「申し訳ない」という不甲斐なさも去来していた。
「僕だけじゃなくて、みんなもどかしさがありました。『自分たちに実力が足りないから、後輩たちに負担をかけさせてる』って」
練習で監督から「そんなこともできないならいらないよ!」とハッパをかけられても下を向かず、「怒られるのは俺たちだけでいい。思いっきりやれ」と後輩の背中を押す。
ただ、3年生だけになると、どうしても負の感情が押し寄せてくる。
「俺たちが第一線で試合に出られたら、あいつらをもっと楽にさせてやれんのに」
キャプテンの田中学から本音が漏れる。
「実力が足りないなら、他でカバーするしかねぇべ。うちらにできることを考えよう」
金原が田中の肩を叩き、励ます。
3年生は後輩たちをとことんサポートした。2年生の畑山は「自分らが勝てたのは、間違いなく3年生のおかげですよ」と頷く。
「面白くない先輩だっていたと思うんです。けど、試合の応援だったり、体育館の掃除だったり、『自分たちに何ができるか?』って考えてくれているのがすごく伝わってきました」