全3回の2回目/#1#3を読む

「スモールボール」思考

 スモールボールで頻繁に求められる3ポイントシュートは、ゴールリングから6.75メートル離れた位置に引かれた曲線の外側から打たなくてはなりません。そのため、近距離からのシュートとは異なる体の使い方を求められます。筋力も不可欠ですが、それよりも大事なのはシュートフォームです。無理のないフォームを作らないと、3ポイントシュートの精度は上がっていきません。

 私の場合、筋力は十分あったはずなのに、最初に打ち始めたときはボールがゴールリングに届かないという経験をしました。3ポイントシュートを決めるには、腕の力ではなく足の力も使う必要があります。正しいフォームによって、下半身の力をいかに上手に上半身に伝えていくのかが重要になるのです。

 最初の数本はゴールリングに届いても、数を打っていくうちにボールが届かなくなることもあります。上半身と下半身の連動がうまくいかないと、筋力頼みになってしまい疲れがたまっていくのです。一方、連動がうまくいくと、数が増えていってもすぐに疲れることはありません。そのコツを習得するまでに、ある程度の時間が必要でした。

 当初は代表チームが取り入れたスモールボールですが、今ではWリーグ全体にその流れが浸透しています。どのチームもスペーシングに力を入れ、センターが3ポイントシュートを打つ場面がよく見られるようになりました。
 
 スモールボールは、小さい選手たちの多いチームが大きいチームに勝つための戦術です。現時点で世界に目を向けると、スモールボールを導入してうまく機能させているのは、女子バスケでは日本ぐらいではないでしょうか。そうした背景もあり、東京五輪での銀メダル獲得に繫がったのだと思います。


 スモールボールを導入するまでは、センターの自分はゴールリング付近にいることが多く、スペースを確保するのに苦労していました。チームメイトの動きに合わせてパスをもらい、その直後にシュートを試みても、自分よりも背の高い相手チームの選手にブロックされたり、打っても外してしまうことがよくあったのです。
 
 ところが、3ポイントラインまで動くようになると、状況は変わってきました。海外の選手たちは、身長の高い選手同士で対戦することが多いため、元々、日本のように身長の低いチームと試合をする経験はあまりありません。経験の少なさに加えて、目新しいスモールボールを実践することで、相手は今までにやったことのないディフェンスをしなければならなくなりました。

 相手が慣れないうちに3ポイントを決めて混乱させ、次に3ポイントシュートをブロックしようとする相手の隙を突き、ドライブを仕掛けて得点をしていく……。代表チームとスモールボールは実によくマッチしたのです。