“世界観”にお客さんが気づかなくてもいい

――テレビの存在感が弱まったことで、定期的に開催する単独ライブで食べていきたいという芸人も増えました。芸人を鍛える場として、単独ライブも大事ですか。

大事ですねえ。若手は1回でもやると大きな経験になります。たとえば漫才を6本作ったら、同じネタはできないから、違うネタのパターンを覚えるので。

――単独ライブは賞レースに向けて新ネタを試す場である一方、演劇のような世界観を求めているファンも多いですよね。

そこは人によりけりですね。個人的な感想としては、「世界観を押し出してもファンしか喜ばないじゃん。初見の人は笑えないだろ」なんですけど。演劇色が強くても否定はしませんよ。でも、曲を使って終盤に盛り上げてって……俺たちは芝居やってるわけじゃないんだし。何か引っかかるんですよ。

――得てして最後に各々のコントをつなげたり、伏線を回収したがりますよね。

そういう世界観の単独ライブが2000年代に増えたんです。「いや知らんがな」という思いもあって、ペナルティの単独はそのアンチテーゼを込めてネタを作成してましたね。

――ルミネで1年に1回やってましたね。

コントをいっぱい作って、5年間続けました。ペナルティの単独って、実は裏では設定をつなげているんですよ。このコントに出てくる子どもが成長したら、別のコントに出てくるあのキャラになるみたいな。ペナルティワールドの中では全部関係性があるんです。

――それは意外です。バカバカしいコントばかりで、ただ笑ってました。そこは気づいてほしいポイントなんですか?

お客さんは別に気づかなくてもよくて、作り手だけがわかっていればいいんです。ひとつひとつのコントで笑わせたらいい。ネタが強いか弱いか、そっちで勝負するほうが僕は好きなんで。


取材・文/鈴木工 編集/斎藤岬

「バラエティに出たい」よりも「『M-1』に出たい」へ はこちらから

『東京芸人水脈史 東京吉本芸人との28年』(宝島社)
著者:山田ナビスコ
「はぁ~い、田辺よ~」誰もが初対面で「売れる」と確信した。ぼる塾・田辺を見事ブレイクさせた“東京吉本”の育成術とは‗01
2022年11月26日刊行
価格:1760円(税込)
単行本:256ページ
ISBN:978-4-299-03263-8
東京吉本芸人の間で語り継がれるレジェンド作家・山田ナビスコ初の自伝的エッセイ!

世界的に見ても“お笑い異常大国”である日本において、
その真っ只中に28年間身を置いた著者が綴る“お笑い”だらけの人生譚。
究極のお笑い番組『笑ってはいけない』や、M-1グランプリをはじめとした賞レース秘話、
極楽とんぼ、ロンブー、ピース、渡辺直美、ダイタク、おかずクラブ、ニューヨーク、ぼる塾など
東京吉本を牽引してきた大人気芸人らとのエピソードなど多数。
amazon