なぜ吉本の劇場では「バトルライブ」が必須なのか
――昔みたいにコンプレックスを燃料に、世間を見返してやるために芸人を志すタイプはいないのでしょうか?
いるにはいます。でも、そのタイプはお笑いを好きでやってる人たちになかなか勝てないと思いますねえ。お笑いへの探究心が違いすぎるので。
――ということは今の若手は平和主義で、「戦って勝つ」という意識が薄い?
それはあるんですよ。ただ、自分のポジションを得るという目的で、戦いを勝ち抜こうとするというか……。意識がビジネスなんです。お笑いを、自分の世界を実現するための手段としてとらえている。オリエンタルラジオなんかその先駆けだったんじゃないですか。生き方として芸人ではあるけれど、ちょっと職業っぽさがある。それは今の学生お笑い出身の芸人に共通しています。
令和ロマンの高比良(くるま)に「芸人になるのは、起業するのと同じ」と言われたのは目からウロコでしたね。
――吉本の劇場はバトルライブがあって否応なく戦うじゃないですか。芸人の能力を磨くうえでバトルは必要?
若いうちは戦わなきゃいけないでしょうね。バトルがなくて野放しだったらここまでお笑いは高度になっていなかったですよ。勝ち負けがあって、このままでは駄目だと思い知ったとき、自分に何が足りないかを考えるからネタが伸びる。
――負荷をかけないといけないのですね。
今の∞(無限大)ホールは2層になっていて、下のユースクラスは戦わないといけないんです。ただ、勝ち上がってレギュラーメンバーになれたら、あとはずっと自分たちのネタだけを磨けばいい。たとえば、ネルソンズやそいつどいつは、最近、新ネタを何本かおろしてその他に企画があるというライブをやってるんですよね。賞レースを想定しつつ、そこまで突き詰めないで、実験的にネタをおろすことができる。
それをやっていくと、とんでもなく濃いネタが生まれるんです。そりゃあ賞レースのファイナリストの輩出率が高くなりますよ。一番の自由を勝ち取るためには、バトルしないといけないから。
一方でカズレーザーさん(メイプル超合金/サンミュージック所属)を見ていると、競争社会からは生まれない異才だなと感じます。吉本にはまだカズレーザーさんを生む土壌はないのかもしれません。
取材・文/鈴木工 編集/斎藤岬
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