辛く苦しいシーンをなんとか乗り越えた
──おふたりはこれが初共演ですが、それぞれに抱いていた印象は?
井上 初めて映画館で見た映画が『男はつらいよ』と『釣りバカ日誌』の2本立てだったんです。その2本が子供の頃からずっと好きだったので、『釣りバカ日誌』に出演されていたえりさんと母娘を演じることは、うれしさ反面、緊張反面でした。
石田 真央ちゃんはもう、若い頃から大スターでしたけど、特に印象的だったのは『焼肉ドラゴン』(2018)。
井上 ホントですか!?
石田 色々あるんですよ、他にも。『八日目の蝉』(2011)も素晴らしかったですしね。でも『焼肉ドラゴン』を見たときに、「うわっ、すごくいい女優さんだ」と思いました。芝居の芯がしっかりしているから、すごく弾けてもブレないんです。だから共演をすごく楽しみにしていました。
──特に印象的だったシーンは?
石田 夕子が夜遅く帰ってきたことを、私が演じる母親が激しくとがめるシーン。結構、大変でした。
井上 でしたねえ(笑)。
石田 あのシーンは、初めて母娘が真正面から対峙することになるので、夕子からもバーンと鬱憤をぶつけられるかと思っていたんです。でも、ずーっと私がひとりでキレまくり、夕子の心は離れていくばかり。私が想像していた感じと違ったので、すっごく大変でした。
井上 あの日はえりさん、一日中、夕子に怒ってました(笑)。
石田 一度くらいは夕子が立ち向かってくるかなって想像していたんだけど。
井上 夕子がお母さんに立ち向かおうとする描写はありましたよね。脚本には「母の顔を見て、どうしようもなく悲しくなる夕子」と書いてあって、最初のテストのときは泣いてしまったんです。でも、夕子はお母さんの前で涙をこぼしたりできないから苦しいんだと。
立ち上がってしっかりお母さんを見つめて、気持ちを言おうとするけどわかってもらえないだろうと諦めてしまう。難しかったですね。
──辛いシーンだったようですが、撮影現場の雰囲気は?
石田 しんどかったですねぇ(笑)。
井上 あはは!
石田 普通にコミュニケーションを取る余裕はなくて。とにかく、自分の役のことで必死でした。
──夕子は母親が期待する娘になれないことに悩み、母親は、一般的な母娘らしいやり取りができないことに悩む。それぞれの親子関係があっていいはずなのに、ふたりとも「母娘はこうあるべき」という世間のラベリングに合わせようと苦しんでいるようにも見えました。
井上 普通に見たらすごくいいお母さん。そんなお母さんの期待に応えられないし、合わせられない自分を、夕子は責めていますよね。もう少し柔軟さがあれば楽に生きられるのになあ……と。でも、世間の当たり前に合わせられないのは、自分に嘘をつかない生き方ですし、「正直でいいんだよ」と言ってあげたいですね。
石田 家族は距離が近いから余計、甘えが出て関係が複雑になるんだけど、一旦その場を離れて、引いたところから見るのもいいと思う。
──家族とはいえ、それぞれが別の人格を持った他人ですしね。
石田 そうそう。家族と気が合わなかったり、関係がキツいと思う人がいたら、距離を置いていいと思います。そうしたほうが、意外に冷静に付き合える場合もあるから。