運が悪いときにこそ試される作品愛

――RTAとの出会いは何だったのでしょうか

10年前、配信中に視聴者から「RTAに興味はありませんか?」というコメントを頂いたのがきっかけです。

それまではRTAという言葉さえ知らなかったのですが、どうやらゲームを早くクリアする遊び方らしいぞ、と。そこで試しにシンフォニアのRTA動画を見て、衝撃を受けました。

それまでの私にとって、ゲームは完全クリアをめざすものだったんです。ゲームは用意されている要素をすべて堪能してこそだと。

例えばRPGなら、ラスボスを倒すまでのメインストーリーだけでなく、サブイベントやアイテム回収といった収集要素まで100%やりこむ。それらのイベントは、プレイヤーに楽しんでほしいという思いで開発者が用意してくれたわけです。ならば、隅々まで遊び尽くして当然。むしろ、取り逃しがあってはゲームが可哀想とさえ思っていました。

しかし、RTAではイベントも飛ばすしアイテム回収のための寄り道もしない。ただ純粋に最速クリアをめざす。今までの自分と正反対の遊び方に驚き、挑戦してみたくなったんです。

10年やりこんで知ったRTAの怖さ…連続48時間プレイ、100回以上クリアしたゲームも_2
右がbrasterさん @RTA in Japan Summer 2022

――それから10年RTAを続けられているというわけですね。とはいえ、それまでの完全クリアをめざすbrasterさんのプレイスタイルと効率的にエンディングをめざすRTAとでは、相容れない部分もあったのではないでしょうか?

そうとも言い切れません。

ゲームによっては敵の取る行動や落とすアイテムなどが何パターンも設定されている場合があります。どれが出るかは運次第なところもあるのですが、どんな状況になっても対応できるように何十回、何百回と練習を重ねるわけです。

しかし、どれだけ練習を重ねようとも、敵が見たことのない攻撃をしてきたり、必須アイテムが予定の場所で拾えなかったりすることがあります。良い記録が出ているときなどに限ってありえない不運を引いてしまうのがRTAの怖いところなのですが、そんなときにこそ作品愛が試されるのではないかと、私は思うんです。

例えば、運が悪くてお金が足りなくなってしまった場合でも、周辺のサブイベントや配置アイテムを知り尽くしていれば、タイムロスを最小限に抑えて金策が可能です。

運が悪いとき、短いRTAであれば計測をやり直せばいいのですが、長時間のRTAでは走りきることも大切です。ひたすら遊んできた経験があるから、不測の事態に陥っても諦めずにリカバリーができるのです。

――データを詰め込むためには、途方もない時間が必要かと思います

引き出しは多いに越したことはありませんから。シンフォニアは少なくとも100周以上はクリアしていますね。遊びすぎて、ディスクを4枚もダメにしてしまいました。

今でも、はじめての作品はひととおり遊びつくしてからRTAに取り組みます。攻略本も全部買うし、載っている情報は自分でも実際に試します。知らなかったことが見つかると、一層作品に近づけたようでうれしい気持ちになります。

不運を引いてしまったときも「こんなパターンもあるんだ!」と気持ちを切り替える。一喜一憂を楽しめることが、一生楽しくRTAを続けていくコツですね。