少女マンガの要素も取り入れた王道作品
極私的な思い出で恐縮だが、『硬派銀次郎』(1975)も忘れることのできない作品だ。
「男子感覚全開」のイメージのある本宮作品だが、こちらではいち早く少女マンガのセンスを取り入れ、女嫌いでまだ背の低い銀次郎を、大柄な女子があれこれと世話を焼いてくれる。のちの『サラリーマン金太郎』でも、「矢島さんにも 深い心理の所でマザコンがある気がするなァ」といった内容のことを商社マンの尾崎にいわれていたが、『硬派銀次郎』は今でいうところの「ラブコメ」のシチュエーションを先取りしていた。
しかし筆者が子どものころに友だちのお兄さんの本棚から借りて読んで、今も忘れられずにいるのは、銀次郎が同級生について語ったあるセリフ。その同級生はヤクザの息子で、大勢の子分に送られて登校していた。彼が利口ならば、それを恥ずかしがるだろう。バカならばカサに着る。しかし彼はそのどちらでもなかった。つまり「男じゃ」と銀次郎はいう。
「バカでもダメだが、利口に立ち回るだけでもない。思ったとおりに生きるのが男」
この言葉は、子ども心にずしんと響き、それから何十年も経った今でも、ずっと心に残っている。本宮氏のキャラには「勢いのまま突っ走って突破する」というイメージもあるかもしれない。それもそうなのだが、実はギリギリの深いところで、ちゃんと状況を見ている。そうしたバランス感覚もまた、本宮作品の魅力だと思っています。