苦悩する大谷がオールスターで見せた笑顔

試合に入っても、大谷は野球少年のごとく楽しんでプレーしているように見えた。

プレーボール直前、5万2518人の大観衆の視線を一身に浴びた「1番・DH」の大谷は、打席前の現地インタビュアーに「今夜、最も楽しみにすることは?」と問われ「First pitch. Full swing. That's it !!(初球をフルスイング。それだけ!!)」と言い切り、笑顔で打席に向かった。

宣言通りだった。プレーボール第1球。左腕カーショーの外角90.9マイル(約146キロ)直球を強振。「いい当たりか、空振りかどちらかがいいかなと思っていた。一番、中途半端な打球だった」。バットを折られ、苦笑いで振り返ったが、最後は右手一本で中前へ。一塁ベース上では、しびれた左手を振っていた。

球宴での初回表の初球安打は同僚のトラウト以来、史上3人目。ただ、しっかりオチもついた。2番ジャッジの3球目の直後、一塁けん制球でアウト。気持ちが高揚したためか走塁用手袋を忘れ「機会があれば走りたいなと思っていた」と振り返ったが、球宴でのけん制死は08年以来、14年ぶりの珍記録。「良くも悪くも名前が出てくればいい」と、いたずらっぽく笑ったのが印象的だった。

プレー以外でも印象深い出来事があった。3回2死。バックネット裏で観戦していたメイソン・マクタフ君(10)とタイラー・センテロ君(10)は一塁ネクストバッターズサークルに立っていた大谷に勇気を出して声を掛けた。すると、大谷は笑顔で快くサインに応じた。

大物OBも現役プロも大谷に太鼓判。移籍騒動乗り越え2年連続MVP狙う_2
試合中、大谷にボールにサインしてもらったメイソン・マクタフくん(左)とタイラー・センテロくん(撮影・柳原 直之)
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メイソン君が「打席の直前にわざわざサインしに来てくれるなんて」と驚けば、タイラー君も「凄く背が高かった。優しい」と大興奮。特にメイソン君は遊撃手と投手を兼ねる野球少年で、将来の夢は「僕は翔平のような二刀流選手になりたい。翔平Jr.だ」と言う。二刀流は今や米国の子供たちにとっても現実的な夢。2人の目はまぶしいくらい輝いていた。

現在、エンゼルスは地区4位に沈み、既にポストシーズン進出は絶望的。本塁打を打った後のベンチでの笑顔が少なくなったと感じているファンの方々は多いだろう。大谷はトレード期限が過ぎた8月3日のアスレチックス戦登板後に「モチベーションは、もちろん難しい」と胸中を吐露した。一方で「個人的にやらなければいけないことはたくさんある。まだまだ続く野球人生。集中してどんな状況でもやれることをやりたい」とも言った。MLBのトッププレーヤーも本命に挙げる、2年連続MVPを大いに期待するとともに、オールスターでの笑顔がまた見られることを願っている。


文/柳原直之(スポーツニッポン新聞社)
画像/アフロ