そのコントこそ、沖縄県民の「本音」だった
沖縄の芸能プロダクション・FECの社長である山城智二は警戒心を解き、思わず吹き出していた。
「これはいけるな、と直感しましたね」
沖縄を代表するローカル芸人、小波津正光はお笑い米軍基地の構想を山城に話した後、沖縄の凱旋ライブで、ネタのうちの1つを試しに披露した。それは「人の鎖」というコントだった。
人の鎖とは、手をつないで米軍施設などを取り囲むデモ活動のことである。コントの中では、人の鎖がつながりそうでつながらない。そこでテニスラケットや脱いだズボンを使ってなんとか輪を完成させようとする。そして、ようやくつながったタイミングで、1人がこう言うのだ。
「もう、帰らなきゃ。このあと、カデナカーニバルに遊びに行く」
沖縄の人なら、ここで必ずウケる。
カデナカーニバルとは年1回、嘉手納基地内で行われる大々的なお祭りのことだ。基地内でロックライブを開催したり、花火を打ち上げたりする。沖縄県内のそれぞれの米軍基地は、こうしてときどき基地解放イベントを開催し、それは県民の大きな娯楽の一つとして定着している。山城は話す。
「僕らは選挙とかになったら明確に基地反対の意志を示す。でもカーニバルは、また別の話。それって僕らの中では普通なんですよ。でも、確かに、端からみたら、めっちゃ矛盾してますよね。あのコントを見て、それに気づかされました」
そのコントこそ、沖縄県民の「本音」だった。そして、その本音に沖縄県民は思わず笑ってしまったのだ。
笑いとは共感だとよく言う。その言説に従えば「人の鎖」は究極の共感の笑いだった。小波津には、沖縄から離れたことで見えるようになったものがある。
「沖縄の人って、自分のことなのに他人事にしちゃうところがあるんですよ。基地なんてない方がいいに決まってると言いつつ、基地内で働くことに憧れていたり、カーニバルになると渋滞に巻き込まれてでも出かけて行く。そうした生活スタイルが染み込み過ぎちゃって、その矛盾を矛盾と思っていない。そこがおもしろさであり、悲しさでもある」
小波津は沖縄県民の「おもしろさ」と「悲しさ」をコントにするという、芸人としての確かな武器を生まれて初めて身につけた。