透明感のある演技で心を揺さぶられる『野球少女』

実在の選手をモデルとした映画『野球少女』が日本で公開されたのは、2019年3月のこと。

女性でありながらプロ野球選手になるために努力を惜しまない主人公チュ・スインを、透明感あふれる演技で体現したのがイ・ジュヨンである。

スインが「天才野球少女」ともてはやされ新聞記事にまでなったのは、女子にしては速い130kmの球を投げるから。だが、自身の評価についてまわる枕詞”女子にしては”に対するやるせなさは、日に日に増していく。思春期ならではの、親や教師とのぶつかり合いも相まって、将来への不安と絶望が肌に迫ってくる。

映画の前半はこういったジェンダー差別とも言える内容が色濃い。しかし、物語が後半に進むにつれ、「世間の逆風をものともしない1人の女性の姿」に強い焦点が当たっていく。

イ・ジュヨン演じるスインの不安に揺れる目、将来を悲観する表情、周りの冷たい目に負けずに努力を惜しまない胆力を見ていると、自分自身の過去を思い出す人も多いだろう。『梨泰院クラス』とはまた違う彼女の姿を、ぜひとも目の当たりにしてほしい。

役者としての柔軟性を感じる『TIMES〜未来からのSOS〜』

2021年に韓国で制作され、日本でも放送されたドラマ『TIMES~未来からのSOS~』。この作品で、主人公のソ・ジョンインを演じたイ・ジュヨンは、これまでに触れたどの作品とも違う表情を見せてくれる。

ジャンルはSFサスペンス。とあるきっかけで、2015年から2020年にタイムスリップしたジョンインは、5年後の未来で議員を務める父親がすでに他界していることを知る。演説中に暗殺されてしまったのだ。

なんとか父親を助けるため奔走するうちに、5年前の世界にいる記者イ・ジヌ(イ・ソジン)と電話で繋がることに成功。彼の助けを借り、父親の暗殺事件を食い止めようと力を尽くすが……。

過去と未来で繋がる1本の電話。未来にいるジョンインにできることは少ない。父親の命を守るため、かすかな希望を手繰り寄せるドキドキハラハラな展開に中毒性がある。

『梨泰院クラス』や『野球少女』とはまた違う、緊張感のあるスリリングな役柄。本作を見たことであらためて、イ・ジュヨンはどんなジャンルにも溶け込める柔軟性をあわせ持った役者だと再認識できた。