1カットの存在感が強烈な『ザ・コール』

『梨泰院クラス』でイ・ジュヨンと共演。驚くほどマッチしたキャラクターによって強い注目を集めたリュ・ギョンス。イ・ジュヨン演じるシェフのマ・ヒョニとともに、飲食店タンバムを盛り上げるスタッフのスングォンを演じた。

この『梨泰院クラス』でブレイクのきっかけを掴んだリュ・ギョンス。まだ露出は多くはないが、見る側に鮮烈な印象を残す作品に数多く出演している。

そんなリュ・ギョンスの1作として紹介したい『ザ・コール』は、過去と未来で電話が通じ合った、とある2人の女性を軸に進むバイオレンスホラー。時空を超えて繋がり合う設定は『TIMES〜未来からのSOS〜』を彷彿とさせる。しかし、些細な交流を深め合うやりとりが、やがて命を削る血生臭さにまみれていく様が強烈すぎる。

本作におけるリュ・ギョンスの出演シーンは、わずか1カットだが、その存在感は確かなもの。とある疑惑の縁にいる主人公の希望を、いとも簡単に退ける警官の酷薄さは、彼にしか表現できないものかもしれない。

変貌ぶりが恐ろしい『地獄が呼んでいる』

ドラマ『地獄が呼んでいる』はカルト宗教を題材にしたサイコスリラー。

ある日突然、謎の巨大生物が無作為に人を惨殺する現象が多発し始めるが、それは「罪を犯した人間を裁く神の意思によるものだ」と新興カルト宗教が喧伝しだす、といったもの。

3話までは宗教団体の議長チョン・ジンス(ユ・アイン)らを中心に、なぜ謎の生物がはびこるようになったのか、死の宣告を受け"地獄に落とされる"者たちは本当に罪人なのか、といった視点が保たれている。

しかし、リュ・ギョンス演じる宗教団体の幹部・ユジ執事らが登場する4話以降からは様相が変わる。民衆の半分が宗教団体の信徒となり、死の宣告や無惨な死は決して青天の霹靂ではなく、その者が犯した罪の結果だとする見方が優勢になるのだ。

暴徒化した信徒たちは止められない。大衆の心を支配したユジ執事たちは、もはややりたい放題である。洗脳の恐ろしさ、大意を得た側が"善"とされる歪さと傲慢さが、これでもかと描かれた作品だ。

ユジ執事を演じるリュ・ギョンスの変貌ぶりがすごい。『梨泰院クラス』の時とはまるで違うオーラを醸し出している。怪しい目つきと、ほとんど動かない表情は、そこはかとないサイコパスさを出しており、うすら寒く感じるほどだ。

『梨泰院クラス』の大ヒットにより、どちらかといえばコミカルな演技が映えるタイプの役者かと思っていた。しかし、振り返ってみれば『梨泰院クラス』の終盤でも、元ヤクザというバックボーンを垣間見せ、"怒らせたら怖い"人間特有の冷徹さが感じられた。彼の真骨頂は、見えないところでナイフを研ぐような鋭い表現にこそ宿っているのかもしれない。

韓国エンタメブームの最先端を担う名優たちから目が離せない。これからの活躍も楽しみに見守りたい。

文/北村有