映画を観られるのは1度だけ! 字幕翻訳の知られざる裏側

ピーク時は1週間に1本のペースで字幕翻訳を担当。必然的に1年で50本手がけた計算になる。

「自分でも信じられませんけど、よくやったと思います。1本の字幕に費やせる期間は1週間。長くても10日しかもらえないんです。しかも各映画会社から依頼がきますから、3本同時にやることもある。その間に映画のプロモーションでスターが来日すると、通訳として1週間は拘束されました。当時はインターネットがなかったので、東京で記者会見をした後は関西地方のメディアのために大阪に移動してまた記者会見。それが終わったら、京都で2〜3日観光するというパターンが多かったです」

今でこそ映画会社には2〜3カ国語を話せる社員がいるものの、当時は通訳の戸田さん自らがスターの観光や食事に付き合い、ガイドのようなことまでやっていた。そのため締め切りが迫っている時には新幹線や飛行機、ホテルでも字幕翻訳の作業をしたという。

「まずは映画会社の試写室で1度映画を観るでしょ。当時はフィルムですから、いちいち気になるシーンで止めることはできませんし、映画を観るのはその1度だけ。英語のシナリオが用意されてあるので、場面ごとにセリフを区切る作業をするんです。区切ったシナリオをもとにAのセリフは何秒、Bのセリフは何秒とリストを作ってもらう。その数字とシナリオを照らし合わせて、どんなに長い原文であろうと1秒4文字というルールの中で読み切れるように字幕を作っていきます。直訳したら画面中文字だらけになってしまうので、字幕翻訳はまず短く訳すのがコツ。特殊な技術と経験が必要でした」

現在、映画の制作はデジタルが主流となり、フィルムが到着しなくてやきもき……などということはなくなったが、そのせいで発生するようになった思わぬ苦労も。

「デジタルだと、監督は公開のギリギリまで編集を粘っちゃうんです。そうすると、直前になって“このシーンはカット”とか“このシーンを追加”なんてことがよくある。本当に字幕翻訳泣かせの時代だと思います(笑)。フィルムは完パケの状態で送られてくるので、後から変更になることはありませんからね。今思うといい時代だったと思います」