大橋は2016年10月に24歳でプロ入り(四段への昇段)を果たした。四段への道を争う三段リーグでは基本的に上位2名が昇段をするが、大橋と同時に四段になったのが、あの藤井聡太である。

大橋の師匠は、関東の名伯楽として知られる所司和晴七段だ。大橋は関東奨励会に在籍していたが、高校を卒業すると自ら関西奨励会に移った。家庭の事情などはあっても、自分の意志での移籍はかなりのレアケースだ。

「三段リーグに上がったばかりの頃は全然勝てなくて、とにかく棋力を上げなければいけないと思いました。東京で続けていく道もあったでしょうけど、思い切って関西に移籍して、まっさらな環境で将棋だけの生活を送ってみようと思ったんです」と大橋は振り返る。そしてこの時期、大橋は三段リーグにはグリーンのスーツで現れるようになる。

「高校を卒業してちょうど制服を着なくなった時期でした。『勝負服』という意味合いでスーツを着用しようと思ったんです」

藤井聡太キラー・大橋貴洸。強さの秘訣は「戦略眼」と「スーツ」にあり_2

環境を変えたこと、そして勝負服の効果もあったのだろうか。徐々に勝ち越しが増え、上位争いをするようになる。時間はかかったが、見事にプロ入りを果たした。

魅せて結果を出すプロ棋士に

プロは見られてナンボの世界である。ファッション以外でも大橋は自己表現を始めた。2020年4月に出版した将棋定跡書のタイトルがふるっていた。

『耀龍四間飛車(ようりゅうしけんびしゃ) 美濃囲いから王様を一路ずらしてみたらビックリするほど勝てる陣形ができた』

タイトルはもちろん大橋の提案である。これほど攻めたネーミングの将棋本がかつてあっただろうか。そして21年末には、「TAKAHIRO OHASHI CHOCOLATE」というオリジナルのチョコレートを期間限定で発売。将棋棋士の枠を超えた活躍だ。

藤井聡太キラー・大橋貴洸。強さの秘訣は「戦略眼」と「スーツ」にあり_3

いくら世間の注目を集めようと、本業の成績が芳しくなければ評価されない。棋士人生をそれなりに送って先が見えてくれば関係ないが、最も将棋に集中できる若手の間は公式戦で結果を出さなければいけない。

大橋は、白星を量産してきた。2018年にはYAMADAチャレンジ杯と加古川青流戦という若手棋戦で優勝した。今年に入ってから活躍はさらに加速する。順位戦B級2組に昇級し、竜王ランキング戦4組でも優勝して、決勝トーナメント進出を決めた。

ちなみに、公式戦を250局以上指した棋士で最高の勝率を誇るのは藤井(270勝54敗、勝率8割3分3厘)。2位は大橋である(180勝71敗、勝率7割1分7厘。成績はいずれも6月26日現在)。