前線では双方が1日に数千機規模のドローンを飛ばし

現在の前線では、双方が1日に数千機規模のドローンを飛ばしている。上空には偵察用や攻撃用のドローンが絶えず飛び交い、兵士が姿を見せればすぐに位置を特定される。

特に危険な前線付近の20~40キロのエリアは「キルゾーン」と呼ばれ、戦車や歩兵による突破は極めて難しくなった。道路には対ドローン用の防護網が張られ、車両の残骸が散乱する。負傷兵の後送や弾薬輸送まで、あらゆる行動が空から監視され、また攻撃され得る。

ウクライナはスタートアップや民間企業を巻き込み、人工知能(AI)による目標認識や電子戦対策の開発を急速に進めた。

政府系防衛テック組織「Brave1」を中心に、前線で得られた教訓を短期間で改良し、量産へ結び付ける仕組みを築き上げた。前線と開発現場が直結する戦場のイノベーションが、軍事大国ロシアと渡り合う原動力になっている。

2025年6月1日の「クモの巣作戦」が覆したのは、「長距離攻撃能力は航続距離で決まる」という従来の常識だった。

ウクライナ保安局(SBU)は約1年半をかけ、爆薬を搭載した小型FPVドローンをロシア国内へ秘密裏に運び込んだ。トラックを航空基地の10キロ圏内まで移動させ、荷台に載せた小屋の屋根を遠隔操作で開き、ドローンを発進させた。

距離がもたらす安全を崩した転換点

ゼレンスキー大統領によると、投入されたドローンは117機。北極圏から東シベリアにかけて複数の航空基地がほぼ同時に攻撃され、ウクライナへの長距離攻撃に使われてきたTu-95戦略爆撃機やTu-22M3超音速爆撃機などが被害を受けた。

ウクライナのゼレンスキー大統領
ウクライナのゼレンスキー大統領

比較的航続距離の短い小型ドローンでも、目標近くまで運び込めば、遠く離れた戦略拠点を攻撃できることを実証した。SBUはロシアの電波環境やGPSの妨害状況も事前に分析。奇襲を受けたロシア側は即応できず、防空態勢を整えることができなかった。

米シンクタンク、戦略国際問題研究所(CSIS)は、この作戦を非対称戦の新たな到達点と評価した。数百ドルのドローンが数千万~数億ドルの航空機を無力化しただけではない。「どこまで飛ばすか」ではなく、「どこから飛ばすか」という発想によって、距離がもたらす安全を崩した転換点となった。

もっとも、こうした大胆な特殊作戦は容易に再現できない。一度警戒されれば、同じ手法を繰り返すことは難しいからだ。