「つゆって生き物だから」先代が残した言葉
現場で味を守る志賀店長がまず口にしたのは、つゆの難しさだった。
毎日、開店の3時間前に店に入り、出汁をとってつゆを仕込むという志賀店長は、こう話す。
「味の差が出すぎないよう、できるだけ細かく見ています。ちょっとしたことでもズレてしまいますから」
スエヒロでは、つゆをただ温めて一定の状態で保つのではなく、営業中も出汁を取り、新しいつゆをつぎながら回していく。つぎ足した直後はカツオの香りが立ち、時間がたてば煮詰まって味が濃くなる。どの状態を「いちばんうまい」と感じるか、人によって違うからこそ難しい。
「つゆって生き物だから」と、先代の阿部さんがよく話していたという。
「売れ行きによって減るスピードも違うし、季節や気温によってもその影響で味も変わる。だからブレをゼロにすることはできない。その幅をどこまで小さくできるかを、毎日考えています」
さらに山本社長は、そこに“立ち食いそば”ならではの美学を重ねる。
「立ち食いそばは、早く食べられて、安くて、おいしいのが魅力です。その中で、天ぷらは揚げ置きでもちゃんとおいしいものにしたい。つゆに入れたときにすぐ負けないこと、サクッとした感じができるだけ残ることを意識しています」
高級そば屋の価値観ではなく、立ち食いそばというジャンルのなかで、どこまで理想を詰められるか。その勝負を、スエヒロは続けている。
もっとも、いまスエヒロを取り巻く現実は厳しい。物価高騰は、「早い、安い、うまい」を掲げる店ほど重くのしかかっている。
2026年3月には、そばやうどん、おにぎりなどの米類を20円値上げした。
ただ、スエヒロそばを愛する筆者としては、たった20円の値上げでいいのかと思ってしまう。ファンとしては、もう少し値上げしてでも、無理のない形で続けてほしいと感じてしまうが、山本社長は言う。
「いまは値上げのタイミングを一度逃すと、次は50円、60円と一気に上げざるを得なくなる。立ち食いそばにとって、50円はすごく大きいんです。たまにがっつり食べる人もいれば、毎朝ルーティンで通う方もいる。同じ50円でも、その重みは違います。だからこそ、一気に上げるのではなく、なるべく小さな幅で値上げをお願いして、お客さんの負担を最小限にしたいんです」















