「これ以上うまい食べ物がこの世にあるのか?」

店内の間取りは三角形のような独特のつくりで、店内に入れるのは最大6~7人ほど。決して広い店ではない。だが、その小ささとは反比例するように、一杯の満足感は驚くほど大きい。

なかでも看板格の「ゲソ天」は圧巻だ。ごろりとした大ぶりの天ぷらにはしっかりとした歯ごたえがあり、熱いつゆを吸っても存在感が消えない。そばと合わせれば、「これ以上うまい食べ物がこの世にあるのか?」と、毎回大げさなくらいの感動を覚える。

深夜1時から営業する「そばのスエヒロ八丁堀店」(撮影/ライター神山、以下同)
深夜1時から営業する「そばのスエヒロ八丁堀店」(撮影/ライター神山、以下同)
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天ぷらの種類は多く、どれも低価格。昼どきには店の外にいつも行列ができている。東京駅からも銀座からも歩いて十数分。この場所で、この味を、この値段で出しているのだから、並ぶ人が絶えないのも当然だろう。

本当に食べるたびに思う。なぜこのクオリティで、この値段でやっていけるのか。しかも驚くべきは営業時間だ。ほとんど人通りのない時間帯、以前は朝3時、2026年春からは午前1時から(火曜~土曜日、月曜は5時半より)店を開けている。

その理由を知るため、山本社長と志賀直道店長に話を聞いた。

創業は1978年。もともとは「六文そば」グループの一店舗として始まり、その後は先代の阿部正夫さんが長く守ってきた。そんな店が閉店を迎えようとしたとき、手を挙げたのが、日暮里の「一由そば」を運営する山本社長だった。

山本社長は、経営者となる以前から、ひとりのファンだったという。

「引き継ぐ前から10年以上通っていました。自分の店をやりながらも、夜中の2時、3時にふらっと来るくらい好きな店だったんです」

同じ立ち食いそば店を営む立場として阿部さんと話を重ね、コロナ禍では対策を相談しあうことで関係はさらに深くなり、店を受け継ぐことになった。

「スエヒロは、チェーン店のように整いすぎた店じゃなくて、どこか屋台の延長線上にあるような店なんです。交差点に明かりがついていて、そこに人が集まってきて、さっと食べて帰っていく。その感じが好きなんですよね」

山本社長が愛する「ゲソ天」+「インゲン天」のそば どちらも大ボリューム
山本社長が愛する「ゲソ天」+「インゲン天」のそば どちらも大ボリューム

スエヒロは時間帯によって客層も変わる。夜中はタクシーやトラックのドライバーが多く、朝に近づくにつれ、仕事終わりの職人や出勤前の会社員がやってくるという。スエヒロは、都市の働く時間に寄り添っている店でもある。

では、その一杯はどのように支えられているのか。