職業選択の自由を侵害するおそれ

入れ墨は、地域の風習や歴史的ないし風俗的な土壌の下で、古来行われてきており、我が国においても、それなりに歴史的な背景を有するものであり、1840年代頃には彫り師という職業が社会的に確立したといわれている。

我が国では、ある時期以降、反社会的勢力の構成員が入れ墨を入れるというイメージが社会に定着したことなどに由来すると思われるが、世間一般に入れ墨に対する否定的な見方が少なからず存在することは否定できない。

他方で、外国での流行等の影響もあって、昨今では、若者を中心にファッション感覚から、あるいは、個々人の様々な心情の象徴として、タトゥーの名の下に入れ墨の施術を受ける者が以前より増加している状況もうかがわれる。

そのような中で、入れ墨を自己の身体に施すことを希望する人々の需要に応えるものとして、タトゥー施術業がそれ相応に存在している。

このように、入れ墨は、皮膚の真皮に色素を注入するという身体に侵襲を伴うものであるが、その歴史や現代社会における位置づけに照らすと、装飾的ないし象徴的な要素や美術的な意義があり、また、社会的な風俗という実態があって、それが医療を目的とする行為ではないこと、そして、医療と何らかの関連を有する行為であるとはおよそ考えられてこなかったことは、いずれも明らかというべきである。

彫り師やタトゥー施術業は、医師とは全く独立して存在してきたし、現在においても存在しており、また、社会通念に照らし、入れ墨の施術が医師によって行われるものというのは、常識的にも考え難いことであるといわざるを得ない。

 (中略)

入れ墨の施術において求められる本質的な内容は、その施術の技術や、美的センス、デザインの素養等の習得であり、医学的知識及び技能を基本とする医療従事者の担う業務とは根本的に異なっているというべきである。

 (中略)

入れ墨の施術は医師のみがなし得るとする原判決の解釈適用によれば、タトゥー施術業を営む被告人の職業選択の自由を侵害するおそれがあり、憲法上の疑義が生じるといわざるを得ない。

タトゥーの歴史や文化、そして、彫師という職業に対する敬意を感じる内容だった。法廷にいた全員が、嚙かみしめるように裁判長の言葉を聴いていた。裁判でたたかうと決めた被告人、彫師たち、医師、研究者、クラウドファンディングで支えてくれた人たち、そして私たち弁護人。みんなで勝ち取った判決。夢を見ているようだった。

無罪判決を勝ち取った増田太輝さん中央と亀石倫子さんその隣 写真/神宮巨樹
無罪判決を勝ち取った増田太輝さん中央と亀石倫子さんその隣 写真/神宮巨樹

検察官は、高裁判決を不服として上告したが、2020年9月16日、最高裁第二小法廷は、裁判官全員一致の意見でこれを棄却した*1。最高裁として初めて、医師法17条の「医業」の内容である医行為の意義とその判断方法を示したものとして、重要な先例となった。