アマゾンの作るストーリー

アマゾンのもう一つの強みは、「物語を語る力」です。

「世界最大の店になる」というビジョンは、株主をも巻き込む強力なストーリーになりました。

他の企業が利益を出して初めて評価される中で、アマゾンは「利益が出なくてもOK」「今は成長に全力投資するフェーズだ」と説明し、株主には、株価の上昇を約束しつつ、配当はめったにしません。これが通用してしまうのは、ストーリーテリングのうまさと、実際に成長し続けるという結果があるからです。

写真はイメージです(写真/Shutterstock)
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今やアマゾンは、ネット通販だけでなく、あらゆる業界に手を広げています。

AWS(アマゾン ウェブ サービス)という世界最大級のクラウド事業、「ラストワンマイル」も自力で担う物流の自社化、高級スーパー(ホールフーズ)買収によるネットとリアルの融合、レジなし・スキャンなしで買える未来型ストア「アマゾン・ゴー」などです。

これらすべてを財務的に支えるのが、年会費制の会員プログラム、アマゾン・プライムです。消費者にとっての便利なサブスクが、アマゾンにとっては莫大な資金源です。

アマゾンは、私たちの買い物の在り方そのもの、さらには「欲しいと思う前に届く世界」を見据えた、未来の消費インフラを設計する企業です。「どこよりも安く、たくさんの選択肢を、すぐに」。

このシンプルなコンセプトの裏に、テクノロジーと物流、そして人間の欲望の深い理解が隠れています。

写真はイメージです(写真/Shutterstock)
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アマゾンは、人間の癖をよく研究し、いくつもの買わせる仕組みを構築しています。

まず、人間の、「自分が思っている以上に、待つことや考えることを面倒だと感じ、一度味わった快適さからは決して戻れない」という性質を利用しています。

また、人間には「たくさんの選択肢から選びたい」という欲求がある一方、「選択肢が多すぎると疲れる」という性質もあり、その両方を満たしているのもアマゾンの特徴です。

「世界一の品揃え」の中から、ユーザーの過去の閲覧・購入履歴から「あなたが次に欲しがるもの」を予測して提示し、ユーザーを「選ぶストレス」から解放しているのです。

さらに、ネットショッピングの最後に住所やカード番号を入力する「数分間の手間」は、実は購入意欲を低下させる最大の壁なのですが、アマゾンは「1‐Click注文」によってこれを徹底的に排除し、「欲しい」と思った瞬間に、理性が働く隙を与えず注文を完了させます。

写真はイメージです(写真/Shutterstock)
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そして、配送スピードの極限化によって、消費者の「今すぐ手に入れたい」という幼児的なまでの欲求にも寄り添っています。

最後に、買い物における最大のストレスは「失敗したくない」「騙されたくない」という不安ですが、アマゾンは、良い評価だけでなく、あえて「悪い評価」も可視化するカスタマーレビューで、消費者の「損をしたくない」という防衛本能を安心感に変えています。

さらに、「気に入らなければ簡単に返せる」という返品の容易さも、購入に伴う心理的リスク(欲望へのブレーキ)を取り除いています。

こうしてアマゾンは、紙のカタログベースのシアーズの進化形として、消費者の欲望を叶えるインフラとなりました。

文/坂出 健

『贅沢と欲望の経営史 あなたはなぜ今日もスタバに行ってしまうのか』 (光文社新書)
坂出 健
贅沢と欲望の経営史 あなたはなぜ今日もスタバに行ってしまうのか
2026/4/15
1,100円(税込)
272ページ
ISBN: 978-4334109486
あなたはなぜ割高でも、”実存のドトール”より”演出のスタバ”に行くのか? その秘密はコーヒーの味ではなく、現代資本主義社会という巨大劇場の構造と、そこで踊らされる私たちの欲望にある。砂糖やコーヒーから始まった「贅沢品」(ラグジュアリ)を、ダイアモンドの独占供給、エルメスやLVMHのプレミアム戦略、ユニクロやザラのマーケティングから「7つの大罪」を満たすGAFAまでを1本の線で繋げ、世界を回す贅沢品の本質に迫る。
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