アマゾンの作るストーリー
アマゾンのもう一つの強みは、「物語を語る力」です。
「世界最大の店になる」というビジョンは、株主をも巻き込む強力なストーリーになりました。
他の企業が利益を出して初めて評価される中で、アマゾンは「利益が出なくてもOK」「今は成長に全力投資するフェーズだ」と説明し、株主には、株価の上昇を約束しつつ、配当はめったにしません。これが通用してしまうのは、ストーリーテリングのうまさと、実際に成長し続けるという結果があるからです。
今やアマゾンは、ネット通販だけでなく、あらゆる業界に手を広げています。
AWS(アマゾン ウェブ サービス)という世界最大級のクラウド事業、「ラストワンマイル」も自力で担う物流の自社化、高級スーパー(ホールフーズ)買収によるネットとリアルの融合、レジなし・スキャンなしで買える未来型ストア「アマゾン・ゴー」などです。
これらすべてを財務的に支えるのが、年会費制の会員プログラム、アマゾン・プライムです。消費者にとっての便利なサブスクが、アマゾンにとっては莫大な資金源です。
アマゾンは、私たちの買い物の在り方そのもの、さらには「欲しいと思う前に届く世界」を見据えた、未来の消費インフラを設計する企業です。「どこよりも安く、たくさんの選択肢を、すぐに」。
このシンプルなコンセプトの裏に、テクノロジーと物流、そして人間の欲望の深い理解が隠れています。
アマゾンは、人間の癖をよく研究し、いくつもの買わせる仕組みを構築しています。
まず、人間の、「自分が思っている以上に、待つことや考えることを面倒だと感じ、一度味わった快適さからは決して戻れない」という性質を利用しています。
また、人間には「たくさんの選択肢から選びたい」という欲求がある一方、「選択肢が多すぎると疲れる」という性質もあり、その両方を満たしているのもアマゾンの特徴です。
「世界一の品揃え」の中から、ユーザーの過去の閲覧・購入履歴から「あなたが次に欲しがるもの」を予測して提示し、ユーザーを「選ぶストレス」から解放しているのです。
さらに、ネットショッピングの最後に住所やカード番号を入力する「数分間の手間」は、実は購入意欲を低下させる最大の壁なのですが、アマゾンは「1‐Click注文」によってこれを徹底的に排除し、「欲しい」と思った瞬間に、理性が働く隙を与えず注文を完了させます。
そして、配送スピードの極限化によって、消費者の「今すぐ手に入れたい」という幼児的なまでの欲求にも寄り添っています。
最後に、買い物における最大のストレスは「失敗したくない」「騙されたくない」という不安ですが、アマゾンは、良い評価だけでなく、あえて「悪い評価」も可視化するカスタマーレビューで、消費者の「損をしたくない」という防衛本能を安心感に変えています。
さらに、「気に入らなければ簡単に返せる」という返品の容易さも、購入に伴う心理的リスク(欲望へのブレーキ)を取り除いています。
こうしてアマゾンは、紙のカタログベースのシアーズの進化形として、消費者の欲望を叶えるインフラとなりました。
文/坂出 健













