猛烈な勢いで広がるネズミによる経済的損失

医療分野以外でも猛烈に広がっているネズミによる経済的損失
医療分野以外でも猛烈に広がっているネズミによる経済的損失

呼吸不全に対して人工呼吸器による生命維持が必要となった場合、入院期間は平均して16日間に延び、費用は4万8772ドル(約760万円)にまで跳ね上がる。人工心肺装置の導入や航空搬送が加われば、医療インフラと患者の家計には長期間にわたって凄まじい経済的出血が強いられる。

腎症候性出血熱の患者を多く抱える中国では、年間1万2000件から2万件の症例が報告されている。この病気に伴う急性腎不全に陥り透析治療が必要となった場合、患者1人あたりの平均医療費は血液透析で8万9257人民元(約205万円)、腹膜透析で7万9653人民元(約185万円)に達する。

地方の平均的な収入と比較して極めて高額であり、農作業に従事する働き盛りの世代が倒れることで、地域全体の生産性低下を招いているという。

損害は医療分野にとどまらない。ウイルスを運ぶネズミによる経済的損失も、猛烈な勢いで広がっている。

ネズミは人間にとって食糧を奪い合う最大のライバルでもある。世界で報告されている侵略的なげっ歯類による経済的損失のうち、実に87%が農業分野に集中している。

タンザニアでは1989年から1990年の収穫期に作物が48%も失われ、局地的には80%を超える被害が出た。インドでも田畑で5%から6%、貯蔵庫で7%の米が食い荒らされている。

エチオピアの大麦栽培においては森林に近い畑で17%の被害があり、1ヘクタールあたり約121ドルの金銭的損害が出ている。大発生したネズミは農作物を食い尽くして各国の農業経済に壊滅的な打撃を与え、食糧価格の高騰を招き、農家の収入を根底から破壊する。

物流網や船に侵入することで、海運業やグローバルなサプライチェーン全体を麻痺させる危険性も孕んでいる。

複雑に絡み合った連鎖反応を断ち切るために

複雑に絡み合った連鎖反応を断ち切るためには、医学や環境科学、経済学の境界を取り払い、人間と動物、生態系の健康を統合して管理する的アプローチが不可避である。

病気が起きてから高額な薬を探し、集中治療室のベッドを確保するだけの事後対応的な仕組みには、すでに限界が来ている。

持続可能な社会システムを構築し、ハンタウイルスを含む感染症のリスクを極小化するためには、複数の施策が急務となる。

第一に、気候変動データと連携し、ネズミの大発生を環境変動の初期段階で探知する生態学的な早期警戒網を世界規模で確立することである。