引き起こされる病気は大きくは2つの型に
感染経路は空気感染が主体であり、農作業中や古い納屋の清掃時など、乾燥したネズミの排泄物が舞い上がりやすい環境でリスクが跳ね上がる。
ウイルスの表面には特殊な構造があり、人間の細胞に触れると内部へと滑り込む。血管の内側を覆う細胞に侵入し、人間の免疫反応と激しく衝突することで、血管の壁から血液の成分が異常に漏れ出す事態を引き起こす。
引き起こされる病気は大きく2つの型に分けられるという。ユーラシア大陸に広がる腎症候性出血熱と、南北アメリカ大陸で猛威を振るうハンタウイルス肺症候群である。
腎臓を中心とする型は、高熱から始まり、血圧の低下、尿が出なくなる苦しい時期を経て回復へ向かう。回復期に入っても数ヶ月にわたって強い倦怠感が残り、以前と同じように働くための体力を取り戻すには長い時間を要する。
一方、肺を中心とする型は数日で急激な呼吸不全に陥る。血管の壁から水分が漏れ出すことで、全身の臓器が正常に働かなくなる。ウイルスは心臓の筋肉に対しても直接的な抑制作用を持ち、低酸素状態と相まって重篤なショック症状を引き起こす。
集中治療室での体外式膜型人工肺といった高度なサポートがなければ、生存は絶望的となる。肺を中心とする型の致死率は30%から50%に達し、命を救うことは極めて難しい。
感染症は構造的な脅威
ハンタウイルス感染症は、特定の地域に限られた医学的な課題と思われがちである。しかし、地球規模のマクロ経済や食料安全保障、社会基盤の安定性を根底から揺るがす構造的な脅威として捉え直す必要がある。
気候変動による異常気象や降水量の変動が、生態系における植物の生産量を不規則に押し上げる。餌が豊富になれば、病原体を抱えたネズミは爆発的に増殖する。無秩序な土地開発、農地の拡大、インフラの整わない急速な都市化が重なる。
結果として野生生物と人類との接点が強制的に拡大され、致命的なウイルスが人間社会へと溢れ出してくるのである。
ハンタウイルス感染症の治療に費やされる医療費は、各国の公衆衛生予算を急激に圧迫する。
アメリカの研究(Hospital cost and length of stay in idiopathic pulmonary fibrosis, 2017)によれば、肺症候群の重篤な病態において入院した場合、平均的な医療費は1万6042ドル(約250万円)に達する。一般的な肺炎の入院費が5000ドル(約80万円)程度であることを考えれば、桁違いの重さであることがわかる。













