王進(おうしん)先生門下の長男、史進(ししん)

──そもそも木村さんが史進役を引き受けた時に、レクチャーみたいなのはあったんですか、『水滸伝』とは何か? みたいな。

とくになかったですね。まず台本をいただいたので、史進という自分が演じる登場人物がどんなふうに描かれているかを読んで、「熱いな、面白いな」と思いました。

ただ、自分が史進を演じている姿が想像できたかというと、そこまではいきませんでした。どういう作品になるかまだわからなかったこともありますが、僕自身が馬に乗ったこともなかったし、身体に刺青(いれずみ)を入れる役をやったことがなかったので。でも、どうなるかはわからないけれど、面白くなりそうな予感がありました。

木村達成さん
木村達成さん

──台本のうしろには北方さんの長大な原作があります。

ドラマの撮影は台本をもとに進められていくので、台本をよく読むことが大事ですが、原作があるとその登場人物を理解する手がかりになりますよね。

ドラマのオリジナル部分もあるので原作そのままではないけれど、原作の世界観を頭の中に入れておくことで、自分の史進というキャラクターづくりに役立っていると思います。

北方さんの『水滸伝』とドラマの脚本の中の史進をベースに、そのうえで僕が考える史進の色も入れています。そうしないと僕がやっている意味がなくなってしまうので、どういう色を加えていくかということを意識しながら『水滸伝』を読み進めています。

──台本自体も北方さんの原作のキャラクターを大切にしているという印象です。

監督始め、みなさんが原作を愛しているんだなと感じます。史進についても、子供っぽさがだんだん抜けて、成長していく流れがあって、すごく考え抜かれた演出になっていて、僕も納得して演じています。

──史進も含めてですけど、若いキャラクターたちが成長していきますもんね。

二巻でも、ようやくではあるけど、徐々に史進が活躍し始めていますからね。メインのストーリーに参加できるのはまだもうちょっと先かなと思うんですけど。

史進目線で言うと、二巻の前半の主役級の武松(ぶしょう)は、王進先生のもとに預けられますよね。王進先生の門下では、史進が一番早く弟子入りしていて、長男ポジションなんですよ。

原作では史進の次に鮑旭(ほうきょく)がいて、武松がいる。そういう系譜があって、乱暴者が王進先生のとこで一人前の人間になっていく。そういうところも面白いですよね。

一巻では無法者だった鮑旭も、二巻では王進先生のもとで真面目にやっている。史進は鮑旭、武松に比べるとちょっと優等生なところもあるなと比較して思いましたね。

──もともと育ちが良い。村の名主の跡取り息子ですから。

そう。「いいとこの子」の要素が勝ってるなと思います。だから、不良だったかもしれないけれど、人間として壊れてはいないんですよ。いら立ちったり、悪態をついたりしますが、それは自分に対しての怒りだったりとか、もっと強くなりたいという気持ちのあらわれなんですよね。でも、武松は一度人間が破綻してしまっているというか。

──武松は過酷な体験をしていますからね。史進は家を継ぐという役割があったから、旅立つ王進先生を見送って、ちゃんとお父さんが亡くなるまで村にいるんですよね。ただ、農業に興味がないから父の跡を継いで村の保正になるのには向いていない。

まだ若いから分別がつかないところがあるけれど、お父さんの史礼(しれい)が史進に期待していたことと、自分が向いているものが違うということも史進のいら立ちの一つだったと思うんですよ。自分は武術を極めたいのにお父さんは自分に村を治めてほしがっている。その葛藤はドラマでも描かれています(第六話)。

少華山の盗賊三人組のうち、陳達(ちんたつ)が手下を引き連れて史家村にやってきて、あっさり史進に倒されるんですよね。そこで史進が陳達を殺そうとする。そこへ魯智深(ろちしん)が来て、王進先生からの手紙を渡されるんです。

ドラマではそうなっているんですが、原作を読むと、陳達がやってくるより先に王進先生からの手紙を受け取っているんですよね。でも、史進が王進先生から受け取ったメッセージは同じだと思います。

「武術が、武術としてだけで存在することに、意味はない。そう書かれていた。(中略)前を見て、世に出よ。そこで、身につけた武術がなんの役に立つか、考えてくれ」
(北方謙三『水滸伝』第一巻「曙光の章」集英社文庫 p.237)

『水滸伝』を読むコツは「推しのキャラクターを見つけること」 木村達成が史進目線で明かす原作の奥深さ_2