結婚したいから稼げる仕事を探して指圧師に

実家に戻ると仕事を探した。運送会社で早朝だけの仕分けの仕事を見つけ、昼間は職業訓練校に半年通った。訓練校は学費もかからず仕事に直結する技術を学べ、太郎さんは介護の資格を取得。

訪問ヘルパーの仕事をしながら、夜はあん摩マッサージ指圧師の国家資格を取る学校に3年間通うことにした。

「訓練校に通っているとき、同級生に一目ぼれしたんです。結婚するには、やっぱり稼ぎがいる。多く稼げる仕事はないかなと思って、ハローワークに行って検索したら、指圧師が割とよかったんで。

その人には告白してふられちゃったけど、指圧ってやりがいもあるし、おもしろそうだなと。訪問ヘルパーはオムツ替えとかあって大変なんで、正直、指圧の方がちょっと楽かなという気持ちもありました」

ところが、太郎さんが資格を取得した直後にコロナ禍になり、仕事ができない不安な日々が半年以上、続く。指圧師の学校の同級生に相談すると、デイサービスの仕事を紹介してくれた。訪問マッサージも開始。運送会社の仕事も続けており、収入が安定したので、実家の近くで1人暮らしを始めた。

(撮影/集英社オンライン)
(撮影/集英社オンライン)

ひきこもりは甘えではなく体の自然な反応

太郎さんによると、指圧は自律神経にアプローチしやすいと言われているそうだ。体の仕組みや自律神経の勉強をしていて、気がついたことがあるという。

「自律神経には、よく知られている緊張と緩和の2種類だけじゃなく、遮断の神経もあるんです。ものすごく強いストレスがかかると、遮断の神経のスイッチが入ってしまい、それ以上、心が傷ついたり、ストレスがかからないように、何も受け付けないで体を防御する。それこそ、ひきこもりの状態ですよね。ああ、なるほどなと思って。

ひきこもりは甘えだとかよく言われますが、ひきこもりは体の自然な反応のひとつなんだと思います」

太郎さんの場合、不登校になったころは、「緊張しやすくて、人前に出るとガチガチで言葉が出てこない」状態だった。おそらく自律神経が乱れて心も体も硬くなっていたのだと推察される。当時の太郎さんには、遮断してひきこもることしか、できなかったのだろう。その後、「お坊さんとお笑い」を手放して、気持ちが緩和されたことで、ひきこもりからも脱することができた。

キャプ:写真はイメージです(写真/PhotoAC)
キャプ:写真はイメージです(写真/PhotoAC)

「緊張と緩和と遮断。どれも必要だけど、どれにも偏らないようバランスが大事。どうしても緊張に偏りがち、遮断に偏りがちなときがあるけど、少し俯瞰で見て、ちょっと休もうとか、少しずつ自分でコントロールできるようになりました。 

今は指圧しているときが一番リラックスできるんです。精神状態としては座禅を組んでいるときに似ているかもしれない。指圧はたまたま見つけた仕事だけど、いい仕事に出会えたなと思います」