現代のヘイトスピーチにつながるアクチュアルな1冊

「ちょっとなに言ってるか分からない。著者名は書いた本人の名前に決まっているじゃないか」という反応が手に取るように分かる。

だが、それは「村上春樹」とか「宮部みゆき」とか、その名前自体に意味がある、言い換えれば、「名前で売れるのだから変える必要のない」作家たちを念頭に置いているからであって、多くの本はそうではない。

「とはいえ、書いた本人は決まっているだろう?」との声が聞こえてきそうだが、では、『九月、東京の路上で』を「書いた本人」は誰だろうか。

写真はイメージです (写真/Shutterstock)
写真はイメージです (写真/Shutterstock)
すべての画像を見る

ブログは複数メンバーによって運営されていた。写真を撮った人やロケハンした人がいる。文章を書いたのは加藤さんだが、関東1円の虐殺事件から90年後の同じ日付に「リアルタイム」でネットにアップしたのは別のメンバーだ。

まず、このコレクティブを構成するメンバーを著者名にするのか、という問題。

さらに、じつはこの時点で、「加藤直樹」という人物は社会運動にかかわる人たちの間でも、ネット上でもまったく知られていないという事実があった。彼は、長年にわたって「鹿島拾市」の名で活躍してきたのだ。

ぼくなど「鹿島」の「拾市=十一」ということは、彼はアントラーズのサポーターなのか、といぶかっただけでなく、なんと古めかしいペンネームかと思った。名前から「昭和11年」生まれかと推測してしまうほどの古さ(ちなみに、彼は鹿島サポーターではないし、1967年生まれだ)。

90年前のことを、老齢と思われる在野研究者が書いた本を、どれだけの人が手に取ってくれるだろうか。いや、そんなことより、この本が現代のヘイトスピーチにつながるアクチュアルな1冊だと認識されるだろうか。

本づくりで世の中を転がす 反ヘイト出版社の闘い方
木瀬 貴吉
本づくりで世の中を転がす 反ヘイト出版社の闘い方
2025年12月17日発売
1,100円(税込)
新書判/240ページ
ISBN: 978-4-08-721390-4

小さくとも、したたかに、抗っていく――。出版社「ころから」戦記!
近年、小規模で個性的な「ひとり出版社」が注目を集めている。だが、2013年創立の出版社「ころから」にはフォロワー(追随する者)がいないと業界では評判だ。
その独自性の源泉はどこにあるのか。「ころから」の本の制作過程をはじめ、経営の仕方、本を取り巻く環境を伝えるのと同時に、ヘイト本が蔓延する書店とそうした社会の現状をいかに動かし、転がしていくかを考えていく。社会がヘイトの空気に覆われた2010年代以降、その暗雲を吹き払うために、そしてタフに生き抜くために、知恵を絞った者たちの闘いの記録。

[推薦]
武田砂鉄さん (ライター)「よりどころのない社会で、よりどころとなる本を作る人」
福嶋聡さん (丸善ジュンク堂書店)「木瀬さんたちの『NOヘイト!』が無かったら、ぼくのこの10年の書店人生は、違ったものだったろう。本に携わる幾人もの思いと行動の連鎖が、世界を変える。希望を、諦めない」

◆目次◆
第1章 ヘイトに抗う
第2章 スモール&タフ
第3章 ころからのある社会

amazon 楽天ブックス セブンネット 紀伊國屋書店 ヨドバシ・ドット・コム Honya Club HMV&BOOKS e-hon