見直し案の年間上限額設定(≒現行制度の多数回該当12ヶ月分:ライトブルー)と2026年8月引き上げ予定上限額(オレンジ)、第二段階の2027年8月引き上げる予定額(グレー)は、それぞれの収入区分で自由に使える所得に占める割合を示している([図3])。

[図3]各収入区分で、収入から住居費や光熱費を引いた「自由に使える所得」のうち、医療費の占める割合を算出。40パーセントの点線が破滅的医療支出の水準をあらわす。伊藤教授提供
[図3]各収入区分で、収入から住居費や光熱費を引いた「自由に使える所得」のうち、医療費の占める割合を算出。40パーセントの点線が破滅的医療支出の水準をあらわす。伊藤教授提供

年間上限額の導入で、ほとんどの収入区分では喫水線の破滅的医療支出(40パーセント)を下回っていることがわかる。ただし、年収250万円以下の低所得層では、五十嵐准教授の推計と同様に、年間上限額設定がまったく救いになっていないことがはっきりと見て取れる。また、年収500万円の層でも医療支出は30パーセント近くに達している。

伊藤教授が示す40パーセントという数字はあくまでもWHOが定義する「破滅的医療支出」の指標であり、医療支出が40パーセントなら貧困に陥るけれども35パーセントなら経済的に安定して暮らしてゆける、というようなオン/オフがくっきり分かれる閾値でないことはいうまでもないだろう。

さらにもうひとつ注意しておきたいのは、高額療養費制度を利用するような大病や大怪我などをしたときは、それまでと同様の仕事を続けられなくなっている場合が多い、ということだ。高額療養費制度の収入区分は前年度のもので計算されるため、病気や怪我をして収入が大きく減る場合も想定に加味した推計が下の[図4]だ。

[図4]疾患や怪我で収入が3~4割減少しても、自己負担上限額を支払う区分は前年度のものが適用されるため、実際の支払い能力以上に過大な医療費負担となる。そのような事情を想定すると、年間上限額が設定される場合(黄)、2026年8月引き上げ(青)、2027年8月引き上げのいずれの場合でも[図3]以上に医療費負担が大きくなっていることがわかる。伊藤教授提供
[図4]疾患や怪我で収入が3~4割減少しても、自己負担上限額を支払う区分は前年度のものが適用されるため、実際の支払い能力以上に過大な医療費負担となる。そのような事情を想定すると、年間上限額が設定される場合(黄)、2026年8月引き上げ(青)、2027年8月引き上げのいずれの場合でも[図3]以上に医療費負担が大きくなっていることがわかる。伊藤教授提供

 この[図4]が示しているのは、年収800万円や1000万円を超えるような高所得層でも、病気や怪我で収入が下がった状態で高額療養費制度を利用すると、貧困(≒破滅的医療支出)に陥る可能性が一気に高くなる、ということだ。それはそうだろう。

見直し案によると高所得者の場合、1ヶ月あたりの自己負担上限額は27万円や34万円、年間上限は168万円である。「それ以上は支払わなくてもいいですからね」と配慮しているにしては、あまりに高額すぎる金額だ。こんな金額を医療費に充てなければならない状態が数ヶ月続けば、蓄えはあっという間に底をついてしまうだろう。

昨年12月末に厚労省が提示した2026年度実施の見直し案とは、つまりこのような内容である。

後編では、この政府案に対する各党それぞれの立ち位置を検証してみたい。

文/西村章