年間上限額制度の効果とは?

とはいえ、この所得層でも過半数の人々が負担増になるのは前述のとおりだ。この低所得層の人々は、今回の見直し案の(数少ない)長所である年間上限額制度の導入でも救済されにくいことを、五十嵐特任准教授はさらに明らかにした。それが下の[図2]だ。

[図2]厚労省見直し案と年間上限額設定の関係を示すグラフ。「区分ア」「区分イ」などの年収区分は[図1]と同じ。「区分エ」が「41-53万円」となっているのは、見直し案では2027年に収入区分を現在の5から13へ細分化し、現行の区分エは年間上限額が41万円と53万円の区分へ分かれるため。また、グラフに文字表示がない区分オの年間上限額は29万円となっている。五十嵐特任准教授提供
[図2]厚労省見直し案と年間上限額設定の関係を示すグラフ。「区分ア」「区分イ」などの年収区分は[図1]と同じ。「区分エ」が「41-53万円」となっているのは、見直し案では2027年に収入区分を現在の5から13へ細分化し、現行の区分エは年間上限額が41万円と53万円の区分へ分かれるため。また、グラフに文字表示がない区分オの年間上限額は29万円となっている。五十嵐特任准教授提供

 年間上限額とは、高額療養費を使用する人、あるいはその自己負担上限額に到達せず高い窓口負担を支払う人などが、1年の総支払額が青天井の過大な金額にならないよう、一定の上限キャップを設けようという方法だ。

収入区分によって年間上限の設定金額は異なっているが、各区分の多数回該当(1年間で3回以上制度を使用すると4回目以降はさらに負担上限が引き下げられるシステム)×12とほぼ同じ金額になるよう設定されている。

つまり、1年間で毎月多数回該当の金額を支払う人の総額よりも過大にならないように設計されている、ということだ。

上図では、緑の折れ線が年間上限額を表している。たとえば年収800万円の人の年間上限額(≒多数回該当で12ヶ月支払う金額)は111万円、年収500万円なら年間上限は53万円であることがわかる。

この緑の階段状折れ線とある部分で交差している赤い線は、各所得層での破滅的医療支出の金額をあらわしている。破滅的医療支出とは、過去の記事で何度も説明してきたとおり、収入から住居費や光熱費など生活に必須の金額を差し引いた、いわば自由に使える所得のうち、医療支出が40パーセントに達すると貧困状態に陥る可能性が非常に高い、とWHOが定義している「生活の喫水線」だ。

現行制度の区分ア・イ・ウの収入区分では、この破滅的医療支出を示す赤い線は階段状の年間上限額(緑の線)よりも上に位置している。つまり、見直し案の年間上限額は、ア・イ・ウの収入区分の人々に対しては、破滅的医療支出に達しない水準で収まるように抑制的な金額として設定されている、ということだ。

一方で、区分エやそれよりも低い区分オの場合、年間上限額(緑)は破滅的医療支出(赤)よりも上に位置している。見直し案の年間上限額に到達したとしても、その金額はすでに当該所得区分の破滅的医療支出を超えてしまっている、ということだ。つまり、この所得区分層では年間上限額が貧困を防ぐための抑制策としてなんら機能していない、ということがわかる。

同様の問題は、大阪医科薬科大・伊藤ゆり教授の調査でも明らかになっている。