派遣に行けば女の人と話せる
クリーニングをするコードは、1日あたり800本ほどで、手作業で行う。鉄製のパイプにつり下げられた数百本のコードの束は、メデューサの髪のように太くうねっている。
この束から1本ずつコードを取り、洗剤をつけたボロ布でしごく。しごく時は力を入れないと、ホコリは綺麗に取り除けない。下を向いて作業するので、何百本とこなすうちに、肩や腕は疲労し、指にはタコができる。しかし、Dさんにとっては、これくらいの労働は大したことない。
「散々キツイことやってきたから、これくらいは平気だよ。こんなのはキツイうちに入らない」
コンセントのプラグに付いた汚れは歯ブラシで取る。作業が雑だとやり直しを命じられるから、手は抜けない。
Dさんの私生活にはパソコンもないし、ルーターもない。掃除している機器が、何に使われ、どこから来て、どこへ行くのかも知らない。ただひたすら硬い機械の表面を、拭き取り続ける。
工場内は天井が高く、機械とダンボールがところ狭しと並び、鈍い機械音が響いている。働く人は驚くほど少なく、数名のエンジニアがパソコンに向かってもくもくと作業している。
「時給は1230円。週払いだと、いろいろ引かれるから手取りは3万5000円くらいかな」
Dさんと同じ作業をする派遣社員はだいたい2~3名で、女性が多い。
「この仕事のいいところは、派遣の女性たちと仲良くできること。女の人と話せるのがラッキー」
働く目的が「女の人と話せる」というシニア男性は実は多い。Dさんも昼休みに休憩室で派遣の30~60代の女性たちに囲まれ、コンビニ弁当を食べるのが楽しみだ。
しかし、メンバーが1か月同じならば長いほう。たいてい「派遣さん」は1週間、早ければ1日で、次々と入れ替わる。もう1年くらい勤めているDさんは、この職場では派遣のベテランになってしまった。












