歴史の巨大な分岐点に立つ

私たちは今、化石燃料を燃やすことで成り立ってきた18世紀の産業革命以来の「化石燃料文明」の終焉と、それに代わる新しいエネルギー文明の黎明期という、歴史の巨大な分岐点に立っている。

本章では、この不可逆的なパラダイムシフトを「シン・オール電化」と名付け、その核心的原理と全体像を解き明かす。

本章で見てゆく世界的な潮流は、独立系シンクタンクEmber が定義する「エレクトロテック革命」とほぼ同義である。太陽光や風力といった地球上に遍在する再生可能エネルギーを基盤とし、それを社会の隅々で最大限に活用するための「7つの神器」─太陽光発電、蓄電池、電気自動車(EV)、ヒートポンプ、水電解装置、パワーエレクトロニクス、そしてデジタル化とAI─によって構成される、高度に統合されたシステムである。

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さらに、再生可能エネルギーがもたらす「ありあまる電気」という豊かさを、水素や合成燃料、熱といった新たな価値へと転換する錬金術「Power-to-X(P2X)」。そして、これまで縦割りであった電力・熱・運輸・産業といった社会の各部門を有機的に結合させ、システム全体の効率と強靭性を飛躍的に高める究極の設計思想「セクターカップリング」。これらが、新しい文明の神経系と循環系を形成する。

これは単なる燃料の置き換えではない。エネルギーの価値の源泉が、物理的な資源の採掘から、システムを最適化する知識や技術へと根本的に移行する、産業構造そのものの革命なのである。

本稿では、この歴史的転換のダイナミズムを、S字カーブが示す非線形の変化から説き起こし、中央集権的なエネルギー支配の終焉と、市民が主権を取り戻す「エネルギー民主主義」の時代の到来を展望する。