S字カーブが描き出す不可避な未来

私たちが今、目の当たりにしているエネルギー転換は、単なる燃料の置き換えではない。それは、緩やかで直線的な変化ではなく、農業革命、産業革命、IT革命に続く、人類史における第4の革命「Ei革命」とも言うべき、非連続的で爆発的なパラダイムシフトである。

この構造転換の本質を理解する鍵は、「S字カーブ」という概念にある。太陽光発電や電気自動車(EV)の劇的な普及が示すように、新しい技術は、ある臨界点、すなわち「ティッピング・ポイント(転換点)」を超えた瞬間から、旧来のシステムを驚異的な速度で駆逐していくのだ。

S字カーブは、イノベーションの採用が非線形に進展するパターンを描き出す。導入初期は、高コストやインフラの未整備、社会的な認知度の低さから、普及は遅々として進まないように見える。

多くの専門家や既存の業界は、この初期段階の緩やかな成長を見て、「新技術はニッチな存在に過ぎない」と結論づけ、その潜在能力を著しく過小評価する。しかし、これは致命的な誤りである。彼らの直線的な思考モデルは、指数関数的な変化の本質を捉えることが構造的に不可能なのである。

この変化の速度は、国際エネルギー機関(IEA)のような権威ある機関でさえ、正確に予測することが困難であった。むしろ「権威ある機関」や「権威ある専門家」であるがゆえに、従来からのエネルギー(化石燃料と原子力)を重視し、従来からの発想や手法に拘ったために、予測を大きく外し続けた。

IEAは毎年のように太陽光発電の導入量予測を大幅に上方修正せざるを得ず、その歴史は既存の組織や専門家がいかにこの非連続的な変化を見誤ってきたかを如実に示している(図4‒1)。

化石燃料文明の終焉と、それに代わる新しいエネルギー文明の黎明期…転換点を超えた瞬間から驚異的な速度で駆逐していく_2

この爆発的な成長を駆動するのは、強力な「正のフィードバックループ」である(図4‒2)。

化石燃料文明の終焉と、それに代わる新しいエネルギー文明の黎明期…転換点を超えた瞬間から驚異的な速度で駆逐していく_3

第一に、「学習曲線」の効果がある。生産量が倍増するごとにコストが一定の割合で低下するこの法則により、太陽光パネルや蓄電池のコストはこの10年で約10分の1にまで劇的に低下した。作れば作るほど安くなるとともに性能が向上し、安く高性能になればなるほど、さらに多く作られるという好循環が生まれる。

第二に、「規模の経済」が働く。大量生産は、固定費を分散させ、ユニットあたりのコストをさらに押し下げる。

第三に、「技術的強化」が進む。たとえば、EVの普及は充電インフラの整備を促し、それがまたEVの利便性を高めて普及を加速させるという、相互に強化し合うエコシステムが形成される。

そして第四に、「社会的普及」の力学が作用する。周囲の人々が新しい技術を導入するのを見ることで、社会的な受容性が高まり、採用の波が一気に広がるのである。

これらのフィードバックループが相互に作用し始めると、システムは「ティッピング・ポイント」に達し、古い均衡は回復不能なまでに破壊される。この時点に至れば、変化はもはや不可避となる。

既存のエネルギー予測モデルがことごとく現実を捉え損ねてきたのは、まさにこの非線形のダイナミズムを無視し、過去のトレンドを直線的に未来へ投影するという根本的な欠陥を抱えていたことに起因している。

したがって、私たちが直面している最大の脅威は、既存のエネルギーシステムの緩やかな衰退ではない。それは、予測をはるかに超える速度で進行する突然の崩壊であり、それに伴う莫大な「座礁資産」の発生である。旧来の石炭火力、ガス火力、原子力発電所は、その経済的寿命を全うするはるか以前に、競争力を失い、不良債権と化すだろう。この変化のダイナミズムを直視し、古いパラダイムから脱却することこそが、新しいエネルギー文明を構想する上での第一歩なのである。